colors 俺は本当に可愛げのない子供だった。 無愛想で、無邪気なんていう言葉からはかけ離れた子供の顔をしているだけの子供だった。 あの頃は、そんな事微塵も気にしてなんていなかったし、それが普通だと、当然のように思えていた。 笑わない子供。 別に笑えない訳じゃない。 いつも取り繕った笑顔で立っていた。 いつも変わらない笑顔。 それが俺の笑顔だった。 笑う、ということがどういうことなのか俺には理解できなかった。 『アスランは楽しいこと、ないの?』 母にそう聞かれても、曖昧に誤魔化していた。 その度に悲しそうに顔を歪めて、俺を抱きしめた母。 あの頃はその意味も分からなくて。 ただ、俺の世界は真っ白だった。 「初めまして。アスラン・ザラです。」 「はじめまして!!」 曇りの無い笑顔と、元気な声。 それがあいつの第一印象。 正直、苦手だと思った。 「あら、キラ君は元気ねえ。」 「そうなの。元気すぎて、いつも苦労させられるわ。」 俺の母と、あいつの、キラの母親は親しい友人らしく仲良さげに話している。 キラ達はつい先日俺の家の近所に越してきたという。 引越しも一段落着いたから、と俺の家に挨拶に来ていた。 「アスラン君はしっかりしてて偉いわね。少しキラも落ち着いて欲しいわ。」 そう言ったキラの母親の表情は、嬉しそうに、幸せそうに笑っていた。 俺は母のあんな顔見たこと無い。 いつも母は寂しそうに、少し悲しそうに笑うことしかなかったから。 「あすらん?」 不意に名前を呼ばれて驚いて声の方に視線を向けると、キラが俺の隣にいた。 「何?」 目が合うと、キラは嬉しそうに笑った。 「アスランあっちで遊ぼう!僕、すごく綺麗な花見つけたんだ!」 「え?」 「あら、いいじゃない。アスラン、遊んできなさい。」 困惑している俺に母が、キラと遊ぶことを促してきた。 こんなこと初めてだった。 初対面で、まだお互いの名前もよく知らないのに、遊ぼう、なんて。 どういう考え方をしているのかと不思議に思った。 「あまり遠くに行っちゃダメよ?」 「はぁいっ!」 母親の声に元気よく答えるキラに手を引かれて、俺は半ば無理矢理つれだされた。 「何処にいくの?」 「ここに来る途中にね、綺麗な花があったの!!」 「花・・・?」 つい最近越してきたキラとは違い、俺は生まれてすぐに月にきた。 そんなに綺麗なものならもう見ている筈だ。 そう、思ったがキラは少し入り組んだ道をすいすいと入っていく。 迷子になるような距離じゃないが、何故キラがこんな道を知っているのか不思議に思った。 そんなに歩いていないのに、いつの間にか風景が違ってくる。 歩いたことがある筈の道。 だけど、何か違って見える。 「ここだよ!!」 キラの少し誇らしげな声に俺は、周りの風景に目を向ける。 「・・・すごい。」 そこには、色とりどりの花が咲き誇っていた。 赤、青、黄色、紫、オレンジ・・・数え切れない緑。 「車に乗ってた時にね、少し見えたんだ。綺麗だよね。」 「うん・・・。」 俺はしばらくその光景に見惚れていた。 その間も、キラは笑っていた。 俺の手をしっかり握って。 「キラは、凄いね。」 「なんで?」 「こんな綺麗な風景なんて、僕は見つけられなかったよ。」 俺がそう言うとキラは嬉しそうに笑った。 「じゃあ、僕が見つけたものいっぱいアスランに教えてあげるね!」 「え・・・?」 「僕が見たもの全部教えてあげる!だから、アスランも僕に教えてね? 二人で教えあっこすればいろんなものいっぱい見えるよ!」 嬉しかった。 ただ純粋に、素直にそう感じた。 自分と同じものを見てくれて、全てを見せてくれる。 まだ知り合ったばかりなのに、こんなに笑ってくれる。 素直に受け止めてくれる。 手を繋いでくれる。 利害関係とかそんなの、何も考えずにただ隣にいてくれる。 そんな事は、初めて。 嬉しくてしょうがなくて。 「僕でも、いろんなもの見つけられるかな・・・?」 笑うこともよくわからない俺が、キラのように見つけられるのだろうか。 「アスランにしか見えないもの、いっぱいあるよ。」 「僕にしか?」 「うん!」 「そう・・・だね。」 それから、キラと二人で少しだけ花を摘んで帰った。 繋いだ手はそのままに、帰りの道を歩いた。 家に着いて、俺とキラは自分の母に摘んできた花を渡した。 母に合いそうな、淡い青い花を一輪。 渡すと母は笑って俺を抱きしめた。 いつもの寂しい笑顔ではなく、本当の笑顔で・・・。
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