契り



 久しぶりに会った彼は、なんだかやつれている様だった。



 師匠が走る、と書いて師走という言葉があるほどに、今の時期は忙しい。
 僕はそうでもないのだけど、カガリの側近に当たるアスランは膨大な仕事があるだろうに。
 それでも子供達が寝静まるこの時間になってしまったけれど、アスランはこの場所に来てくれた。

 車で来るから、と連絡を受けていたから、僕は一人外に出てアスランを出迎えた。
 けれど車が止まってもなかなかアスランは出てこなくて。
 不思議に思い、僕は車の場所まで足を進めて、運転席の窓を軽く叩いた。
 そして、それに答えるようにアスランは窓を開ける。

 「久しぶりだね、アスラン。」
 「キラ・・・」

 アスランとこうして会うのは本当に久しぶりで。
 こうして瞳を合わせたのが、随分前だったように思える。

 「アスラン、みんな待ってるよ。行かないの?」
 
 声は出しても、なかなか運転席から動く気配のないアスランに、僕は再度声を掛ける。

 「・・・アスラン?」

 それでもアスランは動く事をせず、黙ったまま俯いてしまう。
 僕は一度溜め息を吐き助手席へと場所を変えて。

 何も言わずにドアを開け、その席に座った。
 バタン、と音がしてドアが閉まる。
 僕は未だにハンドルを視界に入れたままのアスランの顔を覗き込んだ。


 「・・・アスラン、少し痩せたんじゃない?というか、やつれた?」
 「・・・・・・そうか?」
 「うん、この前見た時はもう少し顔丸かったような・・・」
 「・・・・・・・俺がやつれたんだとしたら・・・・・・」


 アスランはゆっくりと視点を僕に移す。


 「キラがいないからだな・・・。」
 「・・・・・・カガリがいるだろ。」
 「カガリはキラじゃない。」


 アスランの目は冗談を言っているものではない。
 思わず、その目に呆れてしまう。

 「それはしょうがないよ。カガリはカガリだし、僕は僕だし。」
 「・・・それは分かってる・・・」

 けど・・・、とアスランは言葉を続けた。

 「会いたいときに、会えないなんて・・・」
 「アスラン・・・」
 「こういう時期になると思い出すよ、幼年学校の頃とか・・・」
 
 幼年学校の頃。
 アスランにそう言われて、僕は自然と自分の顔に笑みが浮かぶのが分かった。

 「二人で夜遅くまで起きていようとしたよね。」
 「俺は起きていたぞ。キラはすぐに寝たけど・・・」
 「そうそう。なのにアスラン、起こしてくれなくて・・・」
 「次の日の朝には、お前かなり泣いたよな。」
 「・・・そういうとこは覚えてなくていいよ。」
 「記憶力良すぎて。」

 そう言って、二人で顔を見合わせて笑って。
 どちらからとも言えずに、お互いの手を包むように繋ぎ合った。

 「あの頃は、何も考えなくても・・・一緒に居る事が出来たのに・・・」

 アスランは繋がった手の力を強める。

 温かい手。
 ここに存在している証。


 「ねえ、アスラン・・・」
 「何・・・?」
 「確かにあの頃みたいにずっと一緒にはいられないけど・・・」


 僕は手を繋いだまま、アスランの手の甲を自分の頬に当てた。
 アスランは僕の行動に驚き、目を丸くする。


 「こうやって、君と二人で話せるようになったことが・・・、僕は凄く嬉しい。」

 「キラ・・・」

 「会いたいときに会えなくても、会おうとすれば会えるんだよ?」


 僕はそれだけで嬉しいよ。

 そう言葉に出して微笑むと、僕に返すようにアスランも微笑んだ。
 そして、繋がれていないアスランの片腕が僕の背中に回る。

 会いたくても、どんなに会おうとしても。
 会うことが許されなかったあの頃。
 敵同士になって、お互いに憎み合って、殺し合って・・・。

 それなのに、今はこうして笑い合える。
 あの痛みは忘れられないけれど、アスランが隣にいてくれるだけで。
 その痛みも和らいでくれる気がするから。

 
 「・・・会いに来るから。」

 「うん。」

 「絶対に、会いに来るから・・・」

 「うん・・・」


 まるで誓いのようなアスランの言葉。
 僕は短い返事をしながら、その言葉を聞いていた。

 それから数分か、時間が流れて。
 家に入らないのかアスランに聞いてみても、アスランは腕の力を緩めようとはしなかった。



 「・・・・・・二人で、いたい・・・・・・」



 ぽつりと出されたその言葉に少しだけ苦笑して。
 でも、僕もそう思っていたから。



 家で待っているラクス達には悪いとは思ったけれど・・・


 自分の身体をアスランに預ける事で、アスランの言葉に答えた。








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