秘密の関係


「キラ、ここ分かんない」
 「どこ?」

 シンの向っている問題集を覗き込むと、そこには英語の長文の応用問題が載っていた。
 その問題とシンの答えに軽く目を通し、キラは隣で答えを待っているシンと顔をあわせる。

 「ここはね・・・こっちの訳を使うんだ、そうしたらちゃんと繋がるでしょ?」
 「・・・ほんとだ!ありがと、キラ!」

 キラからの少しのヒントに疑問が解け、シンは満面の笑みをキラに向けた。
 
 「どういたしまして」

 それにキラもまた笑って答えて、ノートにペンを走らせるシンを黙って目で追っていた。

 こうしてキラがシンの勉強を見ることは初めてではない。
 特に英語はシンにとって一番の苦手教科らしく、いつも兄であるアスランか、その友達である自分を捕まえてはよく家庭教師をさせている。
 今日も帰宅途中にシンに捕まり、今はシンの部屋で今日出されたという英語の宿題を見ていた。
 しかし最近はシンの兄であるアスランがその役目を買って出るので、キラがシンの家庭教師に就くのは随分と久しぶりだった。
 聞けばアスランは学校の用事で遅くなる、と今日の朝から言っていたらしい。

 アスランとシンの兄妹とキラは、家も近い事もあって昔からの付き合いが続いている。
 キラにとってアスランは、歳が同じ事もあって気が合い、互いの能力も認め合える親友であり、アスランにとっても自分はそうだろうとキラは疑う事もなく思える。
 アスランは親友である自分から見ても、容姿端麗、頭脳明晰の文字をそのまま表したような人物で、学校では生徒会長としての役職に就き、親友として自慢に思うことも多い。

 けれど、その一見完璧に見えるアスランにも唯一の弱点がある。
 キラは真剣に教科書に目を通すシンの横顔を見て、口元に笑みを浮かべた。
 
 「他にわからないところある?」
 「・・・大丈夫、だと思う。この問題で最後。」

 キラの言葉に、シンは教科書から顔を外さずに答える。
 それからすぐに最後の問題へと取り掛かったようで、シンは一度止めたペンをまた動かし始めた。

 アスランのたった一つの弱点。
 それが、妹であるシンの存在だった。
 昔からアスランのシンに対する溺愛ぶりはもの凄く、その様を始めて見た彼の友人はそれは驚くのだ。
 幼い頃から付き合いのある自分は今更驚く事なんてしないが、学校でのアスランを間近で見ているとまあ、無理も無いかなと思ってしまう。

 しかしシン自身も、物心着いた時から兄であるアスランにべったりで、何事も兄の真似をしたがっていたあの頃と変わらず、一人称も未だに『俺』だったりする。
 それに昔からアスランとキラが遊ぶ時には、シンも必ず一緒で性格も『おしとやか』だとか『大人しい』といった女の子らしい性格とは正反対なものになっていた。
 16になった今でも、その性格は何も変わっていない。
 でも、性格は幼い頃と何も変わらなくても、外見はだんだんと女の子になってきて、アスランはそんなシンに悪い虫が憑きやしないかと、常にシンの周りの男には目を光らせている。

 「やっと終った・・・!」
 「お疲れ様。」

 ペンを投げ出して伸びをするシンに、キラは微笑んでその黒髪をそっと撫でた。
 学校の制服であるグレーの短いプリーツスカートから白い太股がちらちらと見えている。

 (アスランがこんなとこ見たら、凄い勢いで慌てそうだな・・・)

 普段からもっとスカートを長くしろだの、捲れるから走り回るのをやめろだの口煩く言っている彼のことだ。
 けれど、シンのスカートの長さは決して短すぎる訳ではないとキラはいつも思う。
 膝よりも少し上の長さに切りそろえられたその長さは、他の子と並べると少し長いくらいだ。

 (本当にシスコンなんだから・・・)

 シンが関わると、途端に取り乱す幼馴染の姿を思い出し、キラの顔は自然に緩まる。

 「キラ?」

 そんなキラに眉を寄せ、シンがキラの顔を覗きこんだ。

 「ごめんごめん、なんでもないよ。」
 「なんだよ、気になるっ!」
 「大したことじゃないよ。」
 「なら教えてくれたっていいじゃん!キラの意地悪っ!」
 
 白い頬を膨らませる幼い仕草。
 キラは目を細め、シンの髪を撫でていた掌をそっと耳の後ろ側へ滑りおろした。

 「ん・・・」

 耳朶を指先で撫でると、シンの細いからだが小さく震えた。
 その反応にキラは浮かべていた笑みを色濃くする。
 そして、掌を首筋から鎖骨へと辿らせ、小さく、けれど柔らかい胸を服の上からやんわりと包み込んだ。
 
 「・・・あ・・・・・・っ」

 柔らかいその感触を楽しむかのようにキラは指を動かし、その度にシンの唇からは甘い声が漏れる。
 愛撫する掌はそのままに、キラは身を屈めシンの耳元へ唇を寄せた。


 「ただ、ね・・・僕とシンがこんなことしてるってアスランが知ったら、凄い事になるだろうなあって。」


 耳元で囁かれてシンはきつく目を瞑り、ふるふると頭を振った。
 そんな行動までもが、キラにとっては情欲を誘うものでしかなく、小さな耳を舌で舐め上げる。
 背筋を伸ばして震え上がる、華奢な身体。
 キラは自らの唾液で濡れた耳朶に柔らかく歯を立てた。

 身体を重ねるようになったのは、つい数ヶ月前のことだ。
 あの時はシンの両親もアスランも、互いにどうしても外せない急用が入り、家で一人になったシンが、その夜に寝る体制でキラの家へと訪れてきた。
 ちょうどその日、キラの両親も外出して誰もいなく、キラは一人突然入りこんだ朗報に静かに歓喜した。
 キラはシンのことを異性として、アスランにも誰にも気付かれないよう想っていたのだ。
 そして、今では念願叶ってシンとは恋人として、アスランには秘密で付き合っている。


 「ねえ、シン・・・家庭教師のご褒美ちょうだい?」
 「や・・・、やだ・・・ぁ・・・」

 首筋に唇を這わせて、吐息の混じった声でそう囁くとシンは懸命に首を振った。
 片手は小ぶりな胸の感触を楽しんだまま、もう片方の指先は白いブラウスのボタンを一つ一つ確実に外していく。
 
 「やだ・・・、やだよぅ・・・・・・や、んん・・・っ」

 いやいやと繰り返すシンの小さな唇を、キラは自らの唇で塞いだ。
 舌を絡ませながらもボタンを外す手は止めず、首元で所在無く揺れていたリボンも取り去ると、シンの肩からブラウスがさらりと滑り落ちる。
 ちゅ、と軽い音を立てて唇を離し、キラは目線を露わになった白い肌へと向けた。
 真っ白な肌に、飾り気のない、淡い水色をした小さな胸を覆っている下着。
 
 「・・・きらぁ・・・・・・」

 舌足らずな声で咎めるように名前を呼ばれ、キラは端整な顔に笑みを乗せたまま、身体を押し返そうとする細い腕を片手で押さえ、開いた手で難なく下着の金具を外した。

 「やあっ」

 そして、それを胸の上まで捲り上げ、外気に触れる小さな突起の先に指でそっと触れる。
 びくりと大きな反応を見せながらも、シンは拒絶の言葉を止めない。
 
 「どうして嫌なの?セックス好きでしょ?」
 「あ・・・っ!」

 言いながら掌をスカートの中へと潜り込ませると、シンは一際高い声を上げた。
 押さえ込もうとするシンの掌を、無視してキラはシンの秘部を下着の上から愛撫する。
 軽く敏感な突起を指先で擦り付けるだけでシンのそこは蜜を零し、誘うように収縮を繰り返す。

 「・・・こんなにしちゃって・・・やらしいね・・・」

 可愛い・・・

 囁きながらキラは華奢な肩口に音を立てて吸い付き、下着の隙間から指を差し入れ直接秘部に触れた。
 濡れそぼった蜜壷に長い指をゆっくりと埋めていく。

 「あ、んっ、やだ、やだぁ・・・っ」

 奥へ奥へと導いてくるそことは違い、シンの口から出てくるのは変わらず拒絶の言葉だけで。
 ここまで拒まれると、少しだけ不安と苛立ちが押し寄せてくるのも確か。

 「シン・・・」

 秘部から指を引き抜き、少しだけ低い声で名前を呼ぶと、シンは縋るように赤い瞳をキラに向ける。
 今にも涙が零れ落ちそうなほどに濡れた双眸に、キラは自らの身体に熱が込み上げてくるのを感じた。

 「だ・・・って、アス兄・・・かえってきちゃ・・・っ!」

 小さな唇から漏れたそれに、キラは口元を緩める。

 「なんだ、そんなことか・・・もう僕とエッチしたくないなんて言うのかと思ったよ・・・」
 「ぇ・・・、や、やだ・・・っ、キラ、おれとしたくない・・・?」

 シンの両手がキラのシャツを握った。
 濡れた唇は、微かに震えている。

 「今したくないって言ってるのはシンじゃないか」
 「だ・・・って、アス兄帰ってきたら・・・っ」
 
 シンの言葉を聞き、キラはすぐさまシンの細い身体を軽々と抱き上げ、机の近くに置かれたベッドへとその身体をそっと下ろした。
 そしてスカートを捲り上げ愛液で濡れたシンの下着を手早く取り去ると、両足の間に自らの身体を割り込ませた。

 「き、きら・・・」

 勃ち上がった自身をシンの秘部に宛がうと、シンは不安に揺れる瞳でキラを見上げる。
 キラはその目元や鼻先に軽く口付けた。 

 「アスラン、帰ってくる前に終らせないとね・・・?」
 「ああ・・・っ!!」
 
 言葉と共に一息で根元まで挿入されたキラ自身に、シンの身体は弓なりに仰け反った。

 「い、・・・あ・・・っ、きら、きらあ・・・ぁあ・・・っ」

 濡れてはいたがあまり慣らしてはいなかった為か、シンは急な挿入に痛みを感じシーツをきつく握り締めた。
 きつく閉じられた赤い瞳からは涙がぼろぼろと零れ落ちる。

 「ごめんね、シン・・・でももう少しだけ我慢して・・・・・っ」
 「や、あぁ!」

 キラは涙で濡れる目元に唇を寄せ、自身で更に深くシンの中を抉った。

 「あ・・・あ、やあ・・・っ、あぅ・・・」

 律動が始めればシンの口からは絶え間なく声が漏れ始める。
 シーツを握る手を開かせ自らの指を絡めると、シンの指がキラの手にきつく食い込んだ。

 「やぅっ、ああ、ん、・・・っ!」
 
 キラの唇が更にシンの快感を引き出そうと、固く立ちあがった胸の突起に吸い付く。
 その刺激にシンの内部はキラ自身を締め付け、キラは微かに眉を寄せた。
 
 「あ・・は、あ・・・あぁ!」
 
 キラのそれが出し入れされる度にぐちゅぐちゅと卑猥な水音が部屋に響く。

 「ね・・・聞こえる?すごくやらしい音してる・・・」
 「んん・・・っ」

 キラの先端が一段深くシンの中を付いて、シンは唇を噛み締めた。
 それに気付いたキラは、きつく閉じられたシンの唇を舌でなぞり、薄く開かせると口内を荒々しく舐め上げて。

 「ん、んう・・・っ、ふ、ん・・・・・・んっ」

 口内をキラの舌に貪られながらも、キラの腰はシンの中を何度も何度も貫く。
 ようやく離された唇の端からは、どちらのものかも分からない唾液が伝い落ちた。

 「あっ、あ・・・!も・・・ぅ、もうやだ・・・っ!だ、め・・・やああ・・・っ!」

 離された唇と同時にキラの動きは激しさを増して、シンは強すぎる快感に限界を訴える。
 キラも熱く締め付けてくるシンの内部に眉を寄せ、ぐっと腰を押し付けた。

 「・・・・・っ、シン、だすよ・・・!」
 「ひ、あぁ・・・っ!」
 
 そして、中に注がれた熱い精にシンは大きく身体を震わせた。
 










 



 
 

 「キラ、来てたのか?」

 ちょうどキラが家から出て来た時、自宅へと帰って来たアスランと鉢合わせをした。
 少し疲れた顔をしているアスランに、キラは目を細める。

 「アスラン、こんな遅くまで生徒会?」
 「ああ、この時期は忙しくてな。」
 「大変だね・・・お疲れ様。」

 溜め息を吐いたアスランを労わるように微笑み、その肩にそっと手をかける。

 「ああ、キラは・・・シンの宿題見てくれていたのか?」
 「うん」

 頷いたキラにアスランは顔を綻ばせた。
 妹を誰よりも大切にしている目の前の彼に、たった今までその妹を抱いていた、なんて言ったらどんな顔をするのだろう。

 「いつも悪いな・・・今度何か奢るよ。」
 「いいよ、気にしないで。僕も楽しませてもらってるから。」

 いつものように笑って、アスランの肩から手を離す。


 「じゃあね、アスラン。また明日・・・」

 
 






 いくら兄といっても、邪魔だけはしてほしくないから。
 まだしばらくは、秘密のままで・・・


 


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