returning place 1

*最終回前に書いていたものなので、実際の最後とは大幅に違う場面が見られます。
 あえて修正しないので、根っこからのパラレルとしてみてください。

 




 ただ簡単な事を、出来なかった。
 いっそのこと罰を与えてくれたらと思うのに、僕の周りは暖かいだけだった。



 「今日の晩ごはん何がいいかなあ。」

 「キラの作ったクリームシチュー。」

 「・・・それは僕に作れってこと?今日はシンが作ってくれるんじゃなかったっけ?」

 「キラの作ったのが食べたいっ!」

 「・・・しょうがないね・・・」

 そして、僕はシンの言葉通りにキッチンへと向う。
 シンの作った料理も食べたいけれど、シンが僕の作った料理が食べたい、そう言ってくれたことの方が嬉しかった。
 冷蔵庫からじゃがいもや玉ねぎを出して、まな板の上に置いていく。
 人参を手に取るといつの間にか僕の横に来ていたシンが、あからさまに嫌そうに顔を顰める。

 「人参いれなくていい・・・」
 「だーめ。人参入ってないと美味しくないよ。」

 子供っぽい我侭を笑って咎め、僕は人参を出しておいた野菜と一緒に並べた。
 そういえばこの前、南瓜ととうもろこしをもらったっけ。
 そんなことを思い出し、それも一緒に出しておく。

 「・・・さて、これで全部かな。」

 一人呟いて野菜を洗う為、水を出そうと手を伸ばして。

 「で・・・、君は手伝ってくれるのかな?」

 ずっと僕の姿を見ているシンに声をかけた。
 けれど、シンは子供が悪戯をする時のような顔で笑う。

 「キラが全部作ってくれるんだろ?」
 「・・・そう言うと思ったよ。」
 「ほら、早く作れよ。腹へって倒れそう。」

 その言葉に僕も笑い返して、止めていた手を動かした。







 ・・・戦争が終わって、半年が経つだろうか。
 ラクスは平和の歌を詠い、カガリはオーブの首長として。
 マリューさんとムゥさんは手を取り、新しい生活を始めた。
 ミリアリアはジャーナリストに戻り、AAのクルーも皆それぞれ自分のやるべき事を見つけたそうだ。

 シンの乗っていたミネルバのクルーは・・・といっても僕が名前を覚えているのは、ルナマリアと、グラディス艦長くらいしかいないけれど。
 シンの話によると、グラディス艦長は変わらずザフトで。
 ルナマリアはAAにアスランと共に乗艦することになった妹のメイリンと、両親のいる故郷へと帰ったらしい。
 ミネルバについてはあまり多くのことは語りたがらないシンだけど、それだけは教えてくれた。

 けれど、その口から一切出ないのが・・・デュランダル議長と、シンのルームメイトでもあったレイの名前。
 デュランダル議長の死亡は確認されている。
 最後の大戦時、彼の乗っていた艦を落としたのは・・・誰でもないシンだから。
 けれど、一方のレイの行方だけは未だに掴めていない。
 死んだのか。それとも生きているのか。
 それすらも分からない。

 アスランは、再びカガリの護衛として、一人の役員としてオーブにいる。
 今度はアレックス・ディノなんて偽名じゃなく、『アスラン・ザラ』として。
 それが、あの忌まわしい戦争を乗り切っての事だと僕は思う。
 コーディネーターの彼が、今はオーブの大事な一人としてここにいることが出来る。
 アスランは何も出来なくて只焦っていたあの時とは違い、自分のやるべきことを見つけ前を見て歩いている。
 僕はまたマルキオさんや母さんのいるあの場所へと帰ろうと思っていた。
 そこで、僕に出来る事を見つけ、一日一日を大事に過ごせれば・・・と。ただそう思っていた。

 でもシンは、止まったままだった。
 いや、正確にいえば動き出そうとすらも出来なかったんだろう。
 ラクスのように戦争で傷ついた人々を癒す事もできない。
 カガリやアスランのように、誰か人の上に立つような場所にもいられない。
 ルナマリアやメイリンのように帰る場所も無い。
 自分のやるべきことも、何も。
 何も見つけられない。

 シンと言葉を交わしたのは、全てが終わった後。
 デュランダル議長のいる艦をシンが落とした彼が、アスランに連れられてAAに着艦した時だった。
 赤い羽根を持つ、デスティニー。
 その名の通り全ての『運命』を辿ったその機体に乗っていたのは、黒髪に真紅の瞳を持った一人の少年。
 着ていたものはザフトの赤いパイロットスーツ。
 けれどその姿を見てすぐに分かった。

 僕は彼を、覚えている。






 「美味しい?」

 目の前で僕の作ったシチューを口に運ぶシンにそう問いかけると、シンはスプーンを口にいれながら小さく頷いた。
 いつもなら僕が聞いた言葉に素直に頷く事なんてしないから、珍しい反応だ。

 「あれ?今日は素直だね?」
 「俺はいつも素直だけど?」
 「・・・まあ、ある意味そうかもね・・・」

 僕は小さく笑いながら自分で作ったシチューに、小皿に置いていたクロワッサンを小さく千切って。
 そして一口大になったそれにシチューをつける。

 「キラっ!なんでクロワッサンにシチューなんてつけるんだよっ!!」
 「この方が美味しいじゃない。」
 「クロワッサンにそんなの間違ってるっ!!つけるならジャムとかバターとかっ!!」
 「別に同じだよ。」
 「同じじゃないっ!!」

 シンの言葉を聞かないフリをして、また同じようにクロワッサンを食べる。。
 するとシンは思ったとおりに顔を顰め、信じられないと呟く。

 「シンも一回試してみればいいじゃない。美味しいよ?」
 「絶対いやだねっ!!」
 
 そう?とそれだけ言葉を返し、僕は何度もこの食べ方を繰り返す。
 元からこうやって食べるのは好きだし、その度にシンが顔を顰めるのが楽しかった。

 シンはよくこうやって、仔犬が吠える時のように怒鳴ったり怒ったりする。
 人のことは言えないけれど、決して性格がいいとは言えないような性格をしていると思う。
 僕のやることが気に入らなければ遠慮もせずに口に出すし、行動にも移す・・・それがシンだ。
 悪く言えば我侭。良く言えば素直すぎる。
 一緒に暮らし始めた時から、これはずっと変わらない。
 本当に最初からこんな調子だった。

 けれど、それが僕にはとても嬉しい事だった。
 
 「ごちそうさまでした。」

 先に食べ終わったシンが自分の食器を持ってキッチンへと向う。
 そして水を出して、それを洗い始めて。
 それから数分後に僕も食べ終わりシンと同じようにごちそうさまでした、と手を合わせ、使っていた食器を持ってシンがいるキッチンへと歩いた。

 「はい、シン。お願いしてもいい?」
 「ん、そこ置いといて。」
 「うん、ありがとう。」

 言われた通りに食器を置く。
 基本的には自分のことは自分でやるようにしているけれど、一緒にやってしまった方が効率のいい部分がある。
 今はまさにそれ。
 後で僕が一人分のものを洗うより、今シンが二人分洗ってくれたほうが時間もかからないし、ちょっとした節約。

 シンは僕の手伝いなんてしない、と言うけれど。
 僕が夕食を作った日には必ず後片付けをしてくれる。
 何も言わないで自然とやってしまうところが、なんだか健気だと一人思うことは結構多い。
 ・・・シンには絶対言わないけど。




 シンと初めて会ったのは、夕暮れの慰霊碑の前だった。
 シンは覚えていないかもしれないけれど、僕はよく覚えている。
 その容姿もそうだけど・・・それよりも言葉。

 『いくら綺麗に咲いたって、人はまた吹き飛ばす』

 その言葉が、そしてあの赤く燃える炎のような瞳が、僕にシンを忘れさせなかった。
 けれど、AAに着艦してデスティニーから降りてきた時のシンの瞳は、只の赤いガラスのようで。
 ひびが入っていて、少しでも触れたら割れてしまいそうで。
 僕は怖いと思ってしまった。
 少しでも傷つけたら壊れてしまいそうなシンに触れるのが、怖かったんだ。

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