きみの温度 「・・・どうしたの、それ?」 他に何を言うわけでもなく。 俺の肩・・・正確に言えば、俺の肩に靠れているものを、ルナマリアは指差した。 「・・・見ての通りだ。」 「見ての通りって・・・。ここ、食堂よ?」 俺の言葉にルナマリアは眉を潜める。 その視線は相変わらず俺の肩を向いていて。 「・・・シン・・・よね?」 「ああ。」 ルナマリアが指差しているのは、俺の肩に靠れて眠る、同僚で同室で。 恋人という関係でもあるシン・アスカその人で。 「・・・寝てるの?」 「・・・起きてるように見えるのか?」 「見えないけど・・・」 そのシンが、どういう訳か並んで座って食事をしている最中に眠りだした。 今日は朝から寝不足だ、と騒いではいたが、まさか食事中に眠りだすとは思う筈も無く。 俺は肩に靠れて眠るシンの顔を覗き見た。 驚くほどに熟睡している。 しかも片手には、フォークを握り締めたままで。 「子供みたい。」 「全くだ。」 俺とシンの向かいに腰を下ろしたルナマリアが、腕を伸ばしてシンの頬を突付いた。 「・・・・・うぅ・・・・ん・・・・」 くすぐったそうに、シンは眉を寄せる。 「・・・起きちゃった?」 「いや・・・まだ起きそうにないな。」 「食べてる途中に寝ちゃうなんて、子供を通り越して赤ちゃんみたいね。レイがお父さん?」 「こんな手のかかる子供なんていらない。」 「そうね。子供じゃなくて大事な恋人だもんね〜。」 「そうだな。」 否定する訳でもなく、素直に頷いてみせる。 シンが俺にとって、大事な恋人であることには違いはないから。 「はいはい。相変わらずシンには甘いのね。」 「それが?」 「・・・今の会話、シンが聞いてたら口聞いてくれなくなっちゃうわよ?」 シンは、俺との関係を人に知られることが嫌らしく。 ルナマリアに知られていると分かった時は、一週間程キスもさせてくれなかった。 それどころか碌に口も聞かず、目を合わせることすら拒んでいた。 あの時は、流石に俺も堪えてしまって。 「・・・それは、困るな。」 「あの時のレイ、結構本気で慌ててたのよね。」 「原因はお前だろうが。」 「・・・そうだったっけ?」 「とぼけるな。」 軽く睨んでやるとすぐに笑って謝ってくる。 「シンも鈍いわよね、隠そうと必死になって。もう知らない人なんていないのに。」 その言葉に軽く頷いた。 何故か艦内で、俺達の関係は既に公認されていて。 正面から聞いてくる無粋な輩こそいないが、当初は遠目にでも感じる明らかな好奇心の目に、苛立ちを感じていた。 ・・・勿論、それなりの制裁はしたが。 そのようなこともあって、今では不躾な視線を感じることもなくなり安心はしている。 「・・・シンが気付いたら、大変なことになりそうね。」 「大変、で済んだらいい方だと思うが。」 多分、暴れるに暴れて。 破壊できるものは破壊し尽して。 最終的には、部屋か、もしくは愛機である機体に篭って出てこなくなるだろう。 「・・・まあ、気付かれない為に、早くここから出たほうがいいと思うわよ?さっきから凄い注目されてるんだから。」 「・・・ああ。」 それは、気付いていた。 「・・・だが、勿体無いな。」 肩に感じる、滅多に甘えることをしない、恋人の温もり。 それを手放すのは、どうしても躊躇してしまう。 俺は肩に靠れたままのシンの頬を、そっと撫でた。 いつもよりも幾分か幼く見える寝顔に、愛しさを覚える。 「・・・・・レ・・ィ・・・・・・」 薄く開いた唇から俺の名前が聞こえたときは、嬉しくて愛しくてどうしようもなくて。 思わず緩んだ口元を引き締めることもせず俺はシンの頬に唇を寄せた。 「・・・・・・あー、もう・・・知らないわよ?」 呆れたような、どこか困ったようなルナマリアの声。 それすらにも耳を貸さずに。 肩に感じる温かなシンの体温に、酔いしれていた。 後日談 「レイーーーーーーーーーっっ!!!!!!!!!」 「どうした?」 「どうしたじゃないっ!!お前何したんだよっ??!!」 「昨夜のことか?」 「・・・(真っ赤)っ!!!違うっ!!!食堂行ったらからかわれたっ!!!」 「食堂?・・・・・・ああ、あれか。」 「あれってなんだよっ!!!」 「・・・・・・知りたいか?」 「し、知りたいけど、知りたくないっ!!!」 「どっちだ。」
|