3.あの人ならやりかねない 何で俺はこの二人に挟まれて歩いているんだろう・・・ しかも何で二人とも俺の手握ってるんだろう・・・ すいません、凄く凄くとてつもなく目立ってるんですけど・・・ 場所は住宅街の道路。 人通りはそこまで多いわけでは無いけれど、それでも擦れ違う人達は驚いて俺達を見ていることが分かる。 「・・・手、離してくれませんか?」 「「何で」」 本当に綺麗に揃えられた返事。 いつもの事だけど、少し感心してしまう。 「だって、目立ってる・・・し・・・」 言いながら視線を彷徨わせると、やっぱり何人かの人達と目が合った。 気持ちは分かる。 俺だって、男三人・・・しかも両隣は誰もが見惚れるような人で。そんな人達と俺なんかが手を繋いで歩いてたらおかしいと思うし。 けれどそんな俺の思いとは逆に、キラさんは満面の笑みを俺に向けた。 「シンが可愛いからね。皆羨ましいんだよ。」 「は・・・?」 言われた言葉の意味が良く理解できなかった。 でもアスランさんはキラさんの言葉に頷いている。 「確かに・・・嫉妬したくなる気持ちは分かるけどな。」 「うん、しょうがないよね。」 いや、もう全然しょうがなくなんてないんですけど。 そう思ったけれど、口にはしなかった。 言ったところでどうにかならないということは今までの経験で分かっているから。 俺は深く溜め息を吐いて、どうして今のような状況になったのか考える。 今日から、テスト一週間前で部活が休みになった。 俺の通うこの高校は所謂『文武両道』というやつで、スポーツは勿論の事、勉強の部分でもトップレベルのランクだ。 俺なんて普通に受けたら間違いなく不合格間違いなし。 陸上の推薦でようやく入れた、という感じで。 ・・・だからテスト期間というものが俺はとてつもなく嫌いだった。 身体を動かす事は大好きだけど、頭を使うのははっきり言って大がつくほど嫌いだ。 そんな俺がテストでいい成績を残せる筈がなく。 それ以前に、勉強なんてしたってさっぱり分からない。 ずらりと紙面に敷き詰められた漢字や数字やアルファベットを見るだけで頭が痛くなってくる。 結果、俺のテストの順位はいつも下から数えた方が早い方。 俺は陸上がしたくてこの学校に入ったから、別にそれでも良かったんだけど、あまりの成績の悪さに、 『次のテストで100番以内に入らないと、冬休みはずっと補修だからな。』 そう担任に言われてしまったのだ。 学校で勉強する事すら苦痛だというのに、折角の冬休みまで勉強で潰れるなんて冗談じゃない! でも、自力で勉強したって今まで最下位に近い方だった俺が、100番以内だなんて絶対に無理だ。目に見えてる。 けど補修はしたくない。 そして俺がどうしよう、どうしようと一人で思い悩んでいたところに、キラさんとアスランさんが現れたのだ。 自分の机に肘をつけ、頭を抱え込んでいた俺に二人はこう言った。 『勉強合宿しよう!』 その言葉に俺は顔を上げて二人の顔を見た。 キラさんと、アスランさんの表情はこっちが驚くほど真剣なもので。 『・・・勉強合宿・・・?!』 『そう、ルナマリアから聞いたんだが、テスト・・・危ないんだろ?』 『う・・・』 アスランさんの言葉に、俺は言葉を詰まらせた。 ・・・というかルナ・・・何で言うんだよ・・・ 『一週間頑張ればきっと100番以内入れるよ・・・!』 『・・・無理ですよ、俺いつも最下位に近いくらいだし・・・』 自分で言っていて思わず哀しくなってくる。 『だから、合宿しようって言ってるの。』 項垂れた俺に、キラさんは強い口調でそう言った。 キラさんの言葉にアスランさんも頷いている。 『合宿・・・って?』 『俺とキラが一週間泊りがけでシンの家庭教師をする。』 『はあ?!』 『一週間、勉強だけに専念すれば大丈夫だと思うんだ。』 冗談・・・と思ったけど、二人の瞳が冗談を言っているようにも見えなくて。 それに、よく考えれば目の前の二人はいつも主席を争うほどの学力の持ち主。 その二人が家庭教師なんて、心強いことこの上ない。 他に頼れる人も対策も思いつかなかった俺は、キラさんとアスランさんの提案に乗ることしか出来なかったのだ。 ・・・そして、今に至る。 つまり今の状況になったのは俺の、責任で・・・ だから俺は二人に手を引かれて黙っている事しか出来ない訳で。 そこまで考え、俺は二人に気付かれないように小さく息を吐く。 合宿場所はアスランさんの家、ということらしい。 キラさん曰く、「アスランの家が一番広いから。」だそうだ。 キラさんもアスランさんも俺と同じく一人暮らしなのは知っていたけど、こうして家に向かうのは初めてで。 今更ながら本当に一週間もお世話になっていいのか、とか。 両隣を歩く二人の手にある、先程家に取りに戻った俺の一週間分の着替えや教科書等が入った荷物を見て、申し訳なくなってしまって。 「あの、本当にいいんですか?」 恐る恐る出した俺の言葉にキラさんとアスランさんは首を傾げた。 「・・・俺の勉強なんて見てたら、二人とも勉強できないだろうし・・・。」 俺のせいで二人の成績が落ちたら・・・と考えると居たたまれなくて。 けれど、キラさんとアスランさんは柔らかく笑って俺の手を握る力を優しく強めた。 「そんな事、シンは何も心配しなくてもいい。」 「そうだよ、一週間もシンと一緒にいられるなんて嬉しいくらいなんだから。」 「でも・・・」 やっぱり、気が引けてしまう。 そんな俺にキラさんは、 「じゃあ、ご褒美くれる?」 と、言った。 「・・・?」 ご褒美? 意味が分からず目を細めた俺に、キラさんは綺麗に微笑みながら俺の唇にそっと指を這わせた。 「シンが100番以内に入れたら、僕達にキスのご褒美。」 「ぅえ・・・っ?!」 思いもしなかった言葉に俺は目を見開いて奇声を上げる。 予想外の事態に驚いて固まってしまった俺の髪に、アスランさんは指を絡ませて。 「入れなかった時は・・・覚悟して置けよ?」 そう、囁いた。 俺は慌てて二人の手から逃げ出そうとしたけど、全然手は離れない。 前へ進まないように足に力を入れたって、二人に引っ張られてずるずると進んでいってしまう。 「や、やっぱり行かない!俺、一人で頑張ります・・・!!」 引きずられながら叫んでも、キラさんとアスランさんはどこか楽しそうに笑ったままで。 「大丈夫だ、テストまでは何もしないから。」 「うん、我慢しないとね。」 「「楽しみだね(な)」」 そんな二人の言葉を聞きながら、もしかしたら二人ともこうなるように仕向けたんじゃないか、とか。 あの担任の言葉も、この二人が絡んでるんじゃないか、とか。 どちらにしてもこの二人ならやりかねない、と。 俺は本気でそう思った。
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