さんにん家族 2



 『・・・シン・・・。シン・・・アスカ・・・』

 そう小さな声で答えた幼子が、家族になったのは一ヶ月程前の出来事。

 傘を持たずに買い物に出かけた僕は、帰り道を急いでいた。意外なほどの大降りに眉を顰めながら駆け足で進んで。
 今考えるとあの状況でシンの姿を見つけられたのは、本当に運命じゃないかと思う。

 いつも通り過ぎる公園のベンチ。
 シンは地面を叩きつけるような雨の中、そこに小さく身体を丸めて転がっていた。
 その時シンが身に着けていたものは、薄いシャツ一枚と七部丈の半ズボン。靴も履いていない小さな足は、泥で汚れていて。
 
 最初目にした時は、もう、息をしていないんじゃないかとも思った。
 それでも駆け寄ると震えながらも小さく呼吸をしているのが解って、僕は無我夢中でその小さな身体を抱え上げた。
 
 僕がよく子猫や仔犬を拾って帰るたびに、アスランは怒った。
 だからシンを連れて帰ってきた僕を見て、当然のようにアスランは怒った。
 アスランが言う事は全て正当。

 そんなこと分かってた。
 僕もアスランもまだ18で、こんなに小さな子供にどう接していいのかも分からないから。
 
 でも、何を言われたってどうしても僕はシンの身体から手を離すことが出来なくて。
 この幼い子供に何があったのかは良く解らないけれど、裸足で逃げ出したくなるような場所にだけは帰したくなかったから。

 だからアスランに我侭を言ったんだ。
 
 
 
 そして、一人増えた僕達の生活。
 始めは戸惑っていたアスランも、少しずつ心を開いていくシンを可愛がるようになって。

 その証拠に・・・

 「・・・ねえ、アスラン。それ何個目?」
 「・・・・・・・7個。」
 「ちょうどシンの年と同じ数だね。ちょうどいいから、もう作るのやめてよ。」

 二人並んで座るソファの上。
 アスランの手の中にあるのは、作りかけのハロ。
 僕の言葉に、アスランは溜め息を吐きながらドライバーを動かす手を止めた。

 「・・・・・他に、何をしたらシンが喜ぶのか解らないんだ・・・。」
 「はあ?」
 「ハロをあげれば喜んでくれるし、俺にはこれくらいしか・・・」

 そう言って項垂れるアスラン。
 俯いた顔を覗きこむと、本当に悩んでいる表情をしていて。
 僕は思わず笑ってしまった。

 「・・・何がおかしいんだよ。」
 「あはは・・・っ、ほ、本当に君って・・・っ!」
 「キラ・・・」

 そうやって暫く笑っていると、アスランは顔を僅かに顰めて僕の名前を呼んだ。

 「はぁー・・・・・・ごめん。だってアスランが変な事言うから・・・」
 「俺は本気で悩んでるんだぞ。」
 「うん、そうみたいだね。」

 僕の助言を待っているアスランは、なんだか年若い父親のように思えて。
 今までに見た事のないその姿がとても新鮮に見えた。
 
 僕は口元に笑みを浮かべ、座っていたソファから立ち上がる。

 「キラ?」

 突然の僕の行動にアスランは困惑しているようだったけど。
 呼ばれた声を無視して、僕はクローゼットからアスランのジャケットを取り出す。

 「はい。」

 そしてそれを持ち主に差し出すと、アスランは目を丸くして。
 けれど反射的に渡されたジャケットを手に取った。


 「それ着て、遊びに行ったシンを迎えに行ってきて?」
 「・・・は?」
 「君が迎えに行ってあげればシンは凄く喜ぶと思うよ。」


 僕の言葉に、アスランがどれだけ早く行動したかはここでは言わないけれど。
 でも満面の笑みを浮かべるシンと仲良く手を繋いで帰ってきたアスランの表情は、本当に嬉しそうな笑顔をしていて。

 「シン、アスラン。お帰り。」

 二人を迎えた僕の方までなんだか嬉しく思えてきて。
 この時間が続くようにと、願わずにはいられなかった。



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