さんにん家族 4


 年が明け、訪れた短い休暇。
 その期間に、いつもは三人の家にラクスとカガリが遊びにきていた。
 初めての対面に戸惑っていたシンも、二人の柔らかい笑顔や優しい言葉に、一時間もたたないうちにすっかり二人に懐いていた。

 「ラクスもハロ持ってるの?」

 ラクスの手の中にある、丸い機械に目をやり、シンは目を見開いた。
 幼い子供特有の表情にラクスはふんわりと優しい笑みを見せる。

 「ええ、そうですわ。」
 「俺も持ってる!アスランから貰ったの!」
 「まあ、それではお揃いですわね。」

 そう言って、笑い合い、ラクスの細い指がシンの髪を優しく撫でる。
 まるで羽のようなその感触にシンは目を細め、次はカガリへと目を向けた。

 「カガリは?ハロ持ってる?」
 「いや、私は持ってないな。」

 突然向けられた視線に驚きながらも、カガリは苦笑しながらそう答えて。
 その返答にシンは少しの間考え込む仕草を見せ、そして自分の持つ七つのハロの一つ。
 オレンジ色のハロをカガリへと差し出した。 

 「これ、あげる!」
 「え?」
 「この色、カガリの目の色と同じだから!だから、これあげる。」
 「でも、お前・・・」

 少しの戸惑いを見せるカガリ。
 しかし、シンはその手にハロを無理矢理とも言える動作で持たせ・・・

 「他の人にはあげないけど、カガリはアスランとキラの大事な人だから!だからあげる!」 

 呆然とするカガリにそう口にした。
 オレンジ色のハロを手に持ち、どうしたらいいか戸惑っているカガリに、席を外していたキラがくすくすと声を漏らしながら居間に入ってきて。

 「カガリ、貰ってあげて。」

 シンは一度言った事は曲げない子だから。

 そう言葉を紡ぐキラにカガリは苦笑を見せ、それからシンの頭に軽く手を置いた。

 「ありがとな。大事にするよ。」
 「うんっ!」

 カガリの言葉に、シンは満面の笑みを浮かべて頷く。
 
 その様子を微笑ましく思いながら見ていたキラはシンに向かって小さく手招きをした。

 「シン、おいで。」

 シンはキラの手招きに答えて、その足元へと駆け寄る。

 「なに?」

 シンはキラに目線を合わせようと、その顔を必死に見上げる。
 キラは微笑ましいその姿に優しい微笑を顔に浮かべ、シンの小さな身体を抱き上げた。

 「あのね、今日レイ君が家に来るって。」
 「レイが?!」

 その名前にシンは顔一杯に笑顔を広げる。

 「そうだよ、今アスランが迎えに行ってるから・・・もうすぐ来るよ。」
 「本当に?!」
 「うん、本当。」

 見るからにはしゃいでいるシンを床に下ろす。
 床に下ろされたと同時に、外が見える窓にべったりと張り付いて。
 今か今かと待ちわびてる小さな背中。

 「キラ、レイ・・・くんってデュランダル議長のとこの・・・」

 カガリがキラにそう尋ねると、ラクスの視線も自然とキラに向けられた。

 「うん、そう。この休暇の間にどうしてもやらなければいけない仕事があって、レイを家に残す事になってしまうから・・・。」

 そこで一旦言葉を止め、キラはシンの背中へと目線を変えて。

 「レイはシンと仲良いから、大人に囲まれているよりも、子供同士の方が楽しい時間を過ごせるだろうって。」

 そう、微笑みながら口にした。

 「シンはレイが来ると喜ぶしね、僕は大歓迎なんだけど・・・」
 「キラ?」

 そこで少し語尾を濁すキラを不思議に思い、ラクスは首を傾げる。

 「僕は歓迎なんだけどね・・・アスランが・・・」

 キラは少しだけ視線を床に落とし、口元に手を添えて。
 どこか困っているようなその姿にラクスとカガリは目を合わせた。


 「来た・・・っ!!」


 シンは声と同時に、足早に玄関まで走り出す。
 ばたばたと足音を響かせながら走っていくシンの後姿を見て、キラは小さく溜め息を吐いた。

 「・・・アスラン・・・大丈夫かな・・・」

 その言葉の意味が分からずに、ラクスとカガリは再び顔を見合わせた。

 「キラ・・・、大丈夫って何がだ?」

 シンが玄関に走り去って行った後のリビングで、カガリはそう尋ねた。
 ラクスも興味があるようで、視線はキラの方を向いている。
 二人の視線を受けながらキラは苦笑を見せた。

 「・・・アスランとレイね・・・凄く仲悪いんだ。」
 「まあ。」
 「はあ?」

 キラの言葉に二人は同時に声を上げて。

 「多分、相性が悪いんだろうね。というかアスランが大人気ないんだと思う。」

 見たら分かるよ。

 溜め息混じりの声。
 キラがその声を出し終わったと同時に、リビングのドアが勢い良く開いた。
 居間に入ってきたのは仲良く手を繋いだシンとレイの二人で。
 キラは柔らかく小さな二人に微笑みかけた。

 「いらっしゃい、レイ。」
 「お邪魔します。」

 軽く頭を下げて挨拶を交わすその姿は、幾らか大人びて見える。
 
 「シンも、お迎えに行ってくれてありがとう。」
 「うんっ!」

 元気良く返事を返すシン。
 いつもよりも生き生きとして見えるのは、はしゃいでいるからなのだろう。
 レイの表情も普段見かけるようなどこか大人びた表情ではなく、歳相応にあどけなく見えて。

 ラクスとカガリに挨拶を、と。
 そう言うと、二人仲良くラクスとカガリにぺこりとお辞儀をしていた。
 シンはレイの姿を見て、それを真似ているのだろう。

 幼い二人は見ているだけで心が温かくなる。

 ラクスとカガリも思うことは同じらしく、二人の頭を優しく撫でてやったりと。
 本当に柔らかい時間が流れているというのに。
 

 「・・・・・・あのガキ・・・っ!!」


 そう思わない者が一人。
 キラは溜め息を付きながら、声の聞こえた背後を振り返った。
 その顔は青筋が立つほどに怒りを露わにしていて。

 「アスラン・・・君、本当に大人気ないよ。」
 「お前はシンの事が心配じゃないのかっ?!」
 「まだレイもシンも子供じゃないか。」
 「子供だからと言って甘く見ていたら、取り返しのつかない事になるんだぞ・・・?!」

 言いながら青褪めるアスランを見て、キラは再び大きな溜め息を吐く。
 
 アスランとレイがここまで仲が悪くなったのは随分と前からの事で。
 幼いながらもレイがシンの事を想っている事は、見ているだけで分かる事。
 キラはその事を微笑ましく想うに対して、アスランは過剰な親馬鹿を見せてくれている。
 元々、相性も良くないこともあってか、二人になればとてつもない暴言が飛び交っているのを、キラも少しではあるが聞いた事があった。

 そこで驚いたのは、アスランの大人気なさよりも、レイの子供とは思えない程に鋭い言葉の数々。


 「・・・今日は何を言われたの?」
 「・・・あいつ、『最近額の面積が広くなりましたね』って・・・っ!!」
 「ああ・・・君、気にしてるもんね・・・。」


 今日、アスランにレイの迎えを頼んだのは、少しでも二人が仲良くなれば、と。
 そう思ってのことだったが、どうやら逆効果だったらしい。

 キラは怒りが収まらない様子のアスランから視線を外し、仲良く談笑している4人の側へと歩み寄る。

 「何、話してるの?」

 一つの輪になって談笑している中の、空いてある場所に、キラは腰を下ろした。

 「将来の夢ですわ。」

 キラの問いにふんわりと優しくラクスが答える。  
 
 「夢かあ・・・シンとレイはなんて答えたの?」
 しっかりと手を繋ぎあったままの二人にキラがそう尋ねると、シンは満面の笑みを浮かべて口を開いて。

 「俺は、キラとアスランみたいにザフトに入って、赤服着るの!!」
 「赤・・・か・・・」

 思わずキラは苦笑を浮かべる。
 自分達のようになりたい、と。
 そう言ってくれるのは嬉しい事だけど、でもシンがザフトに入るということは軍人になるという事で。
 複雑な思いを抱いたまま、キラはレイに視線を移した。

 「レイは?」

 するとレイは子供ながらに驚くほど真面目な顔をして・・・

 「俺はシンの側で、シンを守りたい。」

 そう、言葉を告げた。

 その答えには、思わずキラも目を丸くする。
 ラクスとカガリは苦笑を見せて。
 アスランがどんな顔をしているのかなんて、見なくてもキラには分かった。


 「じゃあ、俺とレイはずっと一緒?」
 「ああ、一緒だ。」

  
 ・・・・・・本気だ。

 その言葉が、自然とキラの頭の中へ浮かんでくる。
 アスランをちらりと見ると、思った通り。
 先程よりも険しい表情でレイを睨みつけていた。

 『ごめん、アスラン。君の言う通りかもしれない・・・。』

 子供だからといって、甘く見れない。

 先程、アスランが言ったその言葉を思い出す。
 今のレイの想いは一時のものだと思っていた。
 けれど、もしかしたら・・・と、そう考えてしまう自分がいる。
 


 シンの事になると大人気なくなるのは、僕も一緒という事か。



 目の前で仲良く手を繋いで笑っている幼い子供達を見ながら、キラは人知れず溜め息を吐いた。





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