さんにん家族 5


 アスランとキラに拾われて、もう5年は経つ。
 俺は14歳になり、今は仕官学校に通っている。

 勿論、キラとアスランのようにザフトに入隊して赤服を着る為・・・ということもあるけれど。
 それ以上に、二人を守れるようになりたかったから。
 今まで俺を守ってくれたアスランとキラを、俺も守りたいと思ったから。
 だから強くなる為に、守る為に、軍人になる事を決めた。

 二人は俺にとって、親のようで兄弟のようで・・・とにかく今の俺にとってはとてもとても大事な人だ。
 幼い頃から近くで見てきたけど、優しくて強くて・・・かっこよくて。
 今通っている学校でも、二人を知らない人なんていない。
 俺が二人と暮らしている、と。
 そう知られた時に酷い目にあった記憶は、新しい・・・。
 その時もやっぱり俺を助けてくれたのは、幼い頃からの友人であるレイと、他ならぬアスランとキラ。

 本当に、俺は守ってもらってばかりだ・・・

 でも今日の射撃の授業で、今までどうしても勝つこのが出来なかったレイに勝つことが出来て。
 早くそれを報告しようと、俺は足早に二人の待つ家のドアを開け、居間へと足を進めた。

 「・・・何、これ・・・・」

 それを目にした瞬間、俺は思わず言葉を失う。
 いつもは綺麗に片付けられているはずの部屋が、見事に荒らされていたのだ。

 ソファーやテーブルなどの家具は、どうすればこうなるのか、と言いたくなるほどにぼろぼろになっていて。
 テレビやパソコンも画面が割れ、壊れてしまっている。
 観葉植物の鉢は倒れ、その中の土は零れ落ちて。

 そして、辺りに散らばる銃の弾や、ナイフ・・・。

 「・・・あ・・・すらん・・・、きら・・・っ?!」

 目の前が真っ暗になった。
 身体が震え、声も揺れた。
 荒らされた部屋に、散らばる凶器。

 アスランとキラの二人に、何かあったことは確かで。

 「キラ・・・っ!!アスランッ!!」

 俺は家中に響き渡るような大声で、二人の名前を呼んだ。
 けれど呼ぶ声が掠れて、うまく言葉が出ない。
 俺はどうしたらいいかも分からずに、その場に膝を落とす。

 もしも、二人に何かあったら。
 もう、会えないなんて・・・そんなことになったら。

 そう考えると自然と目尻が熱くなっていく。
 震える唇を噛み締め、目の淵に溜まった雫を袖で拭おうとした、その時。
 階段を駆け下りてくる足跡が聞こえ、俺は無意識に身体を強張らせる。



 「シン・・・っ!!」



 聞こえたのは、幼い頃から知っている声。


 「キ・・ラ・・・っ?!」


 声の聞こえた方向を見ると、そこにはキラの姿。
 二階にいたのか、怪我しているようには見えなかった。

 「キラ・・・っ!!」

 俺は浮かんだ涙を振り払ってキラに駆け寄り、その身体に飛びついた。

 「キラ・・・キラ・・・うぅ・・・っ」
 「どうしたの?!また何かあったの?!」

 姿を見て安心したせいか、堰を切ったように涙が溢れてくる。
 それに驚いたキラは震える俺の身体を抱き締め、涙を止めようと背中を優しく撫でて。

 その手はとても優しいものだけれど・・・

 「どうしたのはこっちの台詞だっ!!」
 「え?」
 「なんだよ、この家の中・・・!!こんな荒らされてて・・・俺がどんなに心配したと思ってるんだよ・・・っ?!」

 俺の言葉に、何故かキラは目を見開いたまま固まってしまった。

 「キラ・・・っ!!話はまだ終わってない・・・ってシン?!」

 続いて二階から慌しく降りてきたアスランも、俺の姿を見て目を見開く。

 この二人の反応・・・何か、おかしい。
 混乱した頭でも、それくらいは考えられる。

 「・・・ちょうどいい・・・キラ、シンに直接聞こう。」
 「そうだね・・・」

 二人の間に流れる、緊縛した雰囲気に俺はキラの服をきつく握った。
 いつも優しいだけに、こうした雰囲気はとても怖くて。
 どこか殺気を放つ二人に、自然と身体が震え上がる。

 「シン・・・よく聞いて。」

 キラは俺の肩を掴むと、怖いほど真剣な瞳で俺の顔を覗きこんだ。
 キラの隣に移動してきたアスランも、同じく真剣な瞳をしている。
 何を言われるのだろう。
 痛いくらいに、心臓が波打っているのが分かる。
 けれど、聞かなければいけない話だということは分かるから。

 俺は唇を引き結び、二人の顔をじっと見た。

 

 「・・・授業参観、僕とアスラン・・・どっちに来てほしい?」



 じゅぎょうさんかん・・・
 じゅぎょうさんかん・・・

 授業参観??!!

 キラの口から出た単語に、俺は呆然と口を開けたまま動く事ができなかった。

 「俺だよな!?だけどキラが自分が行くって言ってきかなくて・・・!!」
 「当たり前じゃないかっ!!僕が行かなくて誰が行くって言うの?!」
 「俺が行く!!」
 「うるさいっ!!このデコっ!!!」
 「なんだと、このパソコンオタク!!!」
 「オタクはアスランだろ?!機械オタク!!!」
 「お前こそ、その前髪で隠してるだけで本当は生え際ヤバイんじゃないのかっ??!!」 

 俺を挟んで、どんどん激しくなっていく二人の言い合いに思わず俺は耳を疑う。
 そうして、俺が固まっている間も二人の口喧嘩は酷くなる一方で。

 「・・・この・・・っ!!!」

 どこから取り出したのか、アスランはいきなりキラに向かって戦闘用のナイフを投げ付ける。

 「甘い・・・っ!!」

 アスランのナイフの扱い方も凄いけれど。
 それをまたナイフで受けるキラも凄い。

 けれどここまで両端で騒がれれば俺の意識もだんだんと戻ってくる。
 まるで白兵戦演習さながら・・・いや、それ以上の派手な喧嘩を続けようとするアスランとキラに俺は・・・、


 「いい加減にしろよ・・・っ!!!!!」


 出来るだけの力を込めて叫んだ。


 「「シン・・・?」」
 
 
 俺の声に二人の動きは止まり、同時に俺の方を振り返る。
 

 「そんなことで何で喧嘩するんだよっ?!俺、嫌だよ・・・っ!!そんなことで喧嘩するアスランとキラなんて嫌いだ・・・っ!!」


 言いながら、目から涙が溢れてくるのが分かった。
 

 「やだよ・・・、そんなことで喧嘩するなら二人とも来なくていい・・・!!!」


 俺は溢れる涙を袖で拭い、その場に蹲る。
 
 だって、酷すぎる。
 ・・・喧嘩の理由が。

 
 「シン・・・シン、ごめんね?」
 「すまない・・・どうかしてた・・・」

 アスランとキラが俺の隣に膝を落とし、本当に申し訳無さそうな声で俺に言葉をかける。  
 結局、一度出た涙はなかなか止まらずに、俺は二人にあやされながら、暫くの間泣き続けた。






 散々荒らされた部屋の片付けと、壊れた家財用具の買い物などに追われているとき。
 この喧嘩の原因を二人に聞いた。

 原因は先程の二人の言葉の通り・・・俺の授業参観日にどちらが行くか・・・ということで。
 それ以外の理由は無い、とアスランとキラは苦笑を零しながら口にした。

 俺が行く、僕が行くと、二人とも譲らずに次第にあんな大喧嘩になって、気付けば家の中があの状態になっていたらしい。
 後から見たら、二階も酷い有様で。
 それでも俺の部屋だけが荒らされていなかったことに、思わず笑ってしまった。




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