さんにん家族 6 「今日は『たなばた』なんだって」 一日の仕事を終わらせ、シンの待つ家に帰って来たアスランとキラに、シンは大きな紅い瞳をきらきらと輝かせながらそう言った。 一方、アスランとキラは突然のシンの言葉に首を傾げる。 「テレビで言ってた!『たなばた』なんでしょ?」 首を傾げたままの二人に、シンは尚も言葉を続けて。 そしてシンが何度目かの『たなばた』を口にすると、キラは思い出したように口を開いた。 「そっか・・・今日7月7日だ。」 「あぁ、それで・・・」 キラの言葉にアスランは頷く。 雨の降る中、幼いシンをキラが抱えてきたあの日からもう一年が経つ。 シンの素性はまだ知らないところも多々あるが、それでもこの幼い子供が二人にとってかけがえのない一人になっていることは確かで。 どんなに仕事が辛いときでも、『おかえりなさいっ!』と元気に迎えてくれるシンの笑顔にどれほど救われてきたか。 同僚のイザークやディアッカには毎日のように、 「親バカもいい加減にしろ。」 と呆れ口調で言われるほどだ。 そういえば、とアスランは思い出す。 シンが家族になって一ヶ月ほど過ぎた一年前の今日。 『今日は七夕だから。』 と言って、キラが花火を買って帰って来た。 手で持って遊ぶ形の、どこにでもあるようなありふれた花火だった。 どうして七夕なのに花火なんだ、と聞いた自分にキラは幼さの残るその顔に柔らかい笑みをのせて。 『シン、花火しよう。』 そう言って、まだアスランとキラにぎこちない笑顔しか見せることの無かったシンに声をかけた。 『はなび・・・?』 『そう。花火したことある?』 キラの言葉にシンは緩く首を振る。 『凄く綺麗なんだよ。今日は空にも星がいっぱいで綺麗だから、きっとシンもびっくりしちゃうね。』 『そんなにきれいなの?』 『うん、すごく。』 手渡された花火を手に持ち、好奇心に目を輝かせながらキラを見上げるシンの黒髪を、キラはそっと撫でて。 好奇心と共に、どこか嬉しそうに微笑むシンの表情。 幼く愛らしいシンの表情にアスランとキラは顔を合わせて目を綻ばせた。 「シン・・・」 そのことを思い出したアスランは、目の前で目を輝かせているシンの名前を呼んだ。 そして・・・ 「花火買いにいこうか?」 そうシンに笑いかける。 アスランの言葉に、シンは花が咲き誇ったように幼い顔に笑みを広げて。 キラもアスランと同じく一年前のことを思い出していたようで、笑顔でアスランに頷いて見せた。 最後の1本の花火が消え、その花火の先をじっと見つめていたシンはぽつりと言葉を零した。 「俺、たくさんお願いしたよ。」 「お願い?」 キラが優しく聞き返すと、シンは小さく頷いてキラの顔を見上げる。 「うん、テレビで言ってたよ。たなばたの日は願い事を叶えてくれるって。だから俺、花火してる時ずっとお願いしてた。」 正確には短冊に書いた願い事を、笹の葉に垂らす・・・というものだが、幼いシンには『願い事が叶う』という部分だけが色濃く残ったのであろう。 どこか真剣な表情を見せるシンに、アスランが言葉をかける。 「何をお願いしたんだ?」 するとシンは真剣だった顔を、無邪気に笑って見せる。 「ずっとずっと、アスランとキラが元気でいられますようにって。」 シンの言葉にアスランとキラは口元を緩めた。 この幼い子供が、何よりも自分達を思ってくれている証。 二人は膝を折り、シンの低い目線に自らの目線を合わせる。 「・・・俺はシンが元気でいられますようにってお願いするよ。」 「僕は・・・ずっとシンとアスランと、僕が一緒にいられますようにってお願いするね。」 優しく柔らかく。 心からそれを願いながら口にする。 そして、二人の首に細い腕を回して抱き付いたシンの身体に羽のように、けれど離れていかないように、と。 そっと抱き締めた。
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