ss(かきかけだったり元WEB拍手だったり) (キラシン) 彼は、僕から絶対に目を離さない。 紅く濁った瞳は僕を睨みあげ、無意識だろう、いつも強く強く拳を握る。 それがどこだろうと関係ない。 今だって、皆が休憩時間でくつろいでいるこの場所でも、彼の僕を見る目は生易しいものじゃない。 「そんなに強く握ったら、血が出ちゃうよ?」 そう優しく言って手を解こうと手を伸ばした。 彼は振り解くことなく黙っている。 少しだけ伸びた彼の爪先は、掌の皮膚を僅かに突き破っていた。 「あーあ・・・だから言ったのに・・・」 予想をしていた現状だけど、呆れてその掌にそっと口付ける。 舌で傷口を押してやると彼は少しだけ顔を顰めた。 その顔にちらりと視線を向け、僕は満足して更に強く傷口を抉って。 「・・・っ」 痛みに、彼が小さく声をあげる。 それでも、次にはまた僕を血のような目で睨み上げた。 綺麗だとは、思うんだけどね。 それは嘘じゃない。 「キラさん・・・そういうことは人目につかないところでやってくださいよっ!」 「ごめんね、ルナマリア・・・シンが可愛すぎて。」 顔を赤く染めたルナマリアの言葉に、僕は抉った掌に軽く口付けてから手を離す。 口の中に残る、鉄でも舐めたかのような味。 シンの血の味だ。 シンは、相変わらず何も言わず、今度は黙って俯いてしまって。 「シン・・・?」 顔を覗きこもうとしても髪に隠れてその表情を見ることは出来なった。 目に入ったのは、僕が抉った傷口をもう一つの手でそっとなぞっている、その姿。 熱を、持て余している。 どう外に出したらいいのかも分からずにいる。 「部屋・・・行くよね?」 『僕の力を全て君にあげる。』 『その代わり・・・君の身体を僕にくれない?』 心なんていらない。 その身体一つがほしい。 『本当に・・・あなたの強さを持っていれば、俺は殺せますか・・・?』 『・・・殺せるよ。君になら、殺せる。』 「ぁ・・・はあ・・・っ」 組敷いたシンの唇から、吐息交じりの声が零れる。 仰け反った白い喉に歯を立てた。 「・・・っ・・・や・・・」 歯を突きたてては、そこに色づいた歯型を舌でなぞる。 白い肌に、こうした跡はひどく目立つ。 それを何度も繰り返しながら、シンの中に深く入り込んでいる自身をそっと引き抜いた。 「・・・や・・・ぅ・・・っ、ぁ・・・」 紅く染まった喉が小さく震える。 僕はそこから唇を離し、細い両足を抱え直して。 「・・・ふ、・・・うあ・・・っ」 繋がった腰を何度も強く動かすと、シンは白いシーツをきつく握った。 何かに耐えるように。 紅い瞳も、今は伏せられている。 「・・・シン・・・」 名前を呼びながら、僕はシンの白い肌に舌を這わせてゆく。 この肌が好きだ。 真っ白で、綺麗な肌。 綺麗ぶっていて、汚したくなる。 だから何度も口付けて、歯を立てて跡を残した。 この身体は僕のものだから、当然シンの都合なんて考えない。 どんなに傷つけようと。 どんなに暖めてやろうと。 そんなの僕の自由でしょう? 「ひ・・・っ」 シンが痛みに目を見開いた。 二の腕にあった治りかけの切り傷を、僕が舌でまたこじ開けたから。 無理矢理引き裂かれたそこは再び赤い血が流れ出す。 僕は自分が果てるまで、その傷に口付けていた。 (キラシン) 「目とー・・・肌とー・・・髪とー、声とー・・・」 キラが小さな声でなにやら呟きながらソファの上に座っていた。 食器を洗う手を止めて目を向けると、ペンを片手にノートに何か書き込んでいる。 その目が凄い楽しそうなのが気になって、俺は水に濡れた手を拭くとキラの背後にそっと寄っていった。 キラは気づいていないのか、休める暇も無く手を動かしている。 「それに可愛い唇と、小さい鼻と少し触っただけで反応するえっちな耳とー・・・」 キラのすぐ後にたって、ノートの中をこっそり覗き見てもキラはまだ気付いていないようだ。 でも、そんなことよりも気になるのは、このノートの中身。 これって・・・もしかしなくても・・・俺のことじゃないか・・・・? 「焦らしてるときに伸ばしてくる腕と、欲しい時に僕の腰に絡ませてくる細い脚とー・・・」 「な、なにかいてるんだよ・・・っ!!!」 「あ」 キラの口から出てくる言葉が妖しいものに変わっていくのを感じた俺は、慌ててそのノートをキラの手から引き抜いた。 そして、そのノートを二つに折り曲げると近くにあったゴミ箱に投げ入れる。 でもキラはどこか楽しそうに笑っていて。 「何がおかしいんだよっ!」 「大好きだなあって思って。」 「はあ?」 キラは身体を反転させてソファの背凭れに肘を置く。 俺はソファの真後ろに立っているから、ちょうど向い合わせになる体制だ。 「シンのどこが好きなんだろうって思って書いてたんだ。すごいよね、いくらでも書ける。」 「・・・・・・」 「でも、逆に嫌いなところっていくら考えても書けない。」 だって、嫌いなところないんだから。 キラはそう言って綺麗な顔でふわりと笑った。 その顔に、その言葉は・・・反則だ。 自然と顔が熱くなっていくのが、嫌って言うほど分かる。 「シン、好きだよ。大好き。」 キラは身体を伸ばして、俺の唇にそっと自分のそれを重ねて。 「・・・ばかキラ・・・」 俺はキラに答えるように、離れた唇を追って口付けた。 (キラシン) 誰かの、泣く声が聞こえた。 開いたドアから漏れる声。 既に艦内は静まり返っているというのに。 キラは眉を顰めながらもそっとその室内へと足を進めた。 「・・・?」 陽が上っている時間には多くの人で賑わう部屋。 けれど、今は一つの静かな泣き声に包まれている。 感情を押し殺して。 泣きたいけれど、泣きたくない。 そんな思いが感じられる泣き声。 明かりがついていない部屋でも、背中を丸めたその姿が誰のものなのか。 キラにはすぐに分かった。 「シン・・・」 小さな声でその名を呼ぶと、シンの体がびくりと跳ねる。 「・・・っ!」 その拍子に手に握り込んでいたピンクの携帯電話が、音を立てて床に落ちて。 キラは床に転がるそれを拾おうと、ゆっくりと身を屈めた。 「触るな・・・っ!!」 伸ばした手を振り払うかのように、シンは素早く些か乱暴な手つきでピンク色の携帯電話を手に取る。 そして涙に濡れた赤い瞳でキラを睨み付けた。 「あんたが触っていいものじゃないっ!!」 キラはその言葉に何も反論することなく。 「・・・ごめんね。」 一言だけ、口にした。 「・・・分かってんなら出てけよっ!!本当は今すぐ殺してやってもいいんだからな・・・っ!!」 「ごめん。」 「何に謝ってんだよ・・・っ」 「出て行って、あげられないから。」 「一人で泣くのは辛いでしょう・・・?」 (レイシン) 「おい、そこのラッキースケベ!」 突然、背後から声をかけられ驚いて振り向くと、そこにはヨウランとヴィーノがいた。 「それはもう時効だろっ!大体あれは事故だ!」 「でも触ったことには変わりなし。」 先日のこと。ヨウランと二人で買出しに出てから、俺には訳のわからない不名誉なあだ名がついてしまった。 本当にあれは事故だったんだ。 たまたまぶつかって倒れそうになった女の子を助けようと、手を伸ばしたら、本当に偶然・・・その子の胸に触れてしまっただけであって・・・。 大体そのことはヨウランしか知らない筈なのに、隣にいるヴィーノまでもがにやにやと笑みを浮かべている。 ・・・お前、言いふらしたな・・・ 「触りたくて触ったわけじゃないっ!そんなこと人に言うなよな!!」 「いいじゃん、面白いし。」 「うんうん。」 ヨウランの言葉に、ヴィーノが本当に楽しそうに頷いている。 そっちは楽しいかもしれないけど、俺は何も楽しくない。 これがきっかけで『ラッキースケベ』なんてあだ名が広まったら本気で笑えない。 俺はそう呼ばれる為にザフトに入ったんじゃない。 「とにかくっ!もう忘れろ!」 人の悪そうな笑顔の二人に俺は言い聞かせるように。半ば懇願するようにそう言った。 ・・・けれど、問題はもう起きていて。 「ラッキースケベ・・・?」 不機嫌を隠さないその声に、俺は隣にいた人物を思い出す。 「・・・レ、レイ・・・っ!」 「なんだそれは。」 信じ難いけど俺は隣を歩いていたレイの存在を忘れていた。 鋭い蒼の目が細められ、眉間には深い皺。 普段から愛想がいいわけでもないし、どちらかといえばいつも無表情に近いレイがこんな顔をする時は本当に不機嫌な時。 「それはっ、事故で・・・!たまたま・・・っ!」 「おい、どういうことだ。」 必死に言い訳しようとしてもうまく言葉が繋がらない。 混乱しきっている俺を横目に、レイはヨウランへと視線を変える。 「あー・・・」 ヨウランはちらりと俺に目線を向けた。 言っていいのか悪いのか、俺にに尋ねるようなその目に俺は大きく首を横に振った。 きっとレイはこういう話題は好きではないとでも思ったのだろう。 幸いなことに俺にとってはレイには知られたくない出来事。 レイとは、恋人、という関係だ。 男同士ということもあって周りには秘密の関係だけど。 ヨウランやヴィーノにもいえないこの関係。 それでも俺はレイのことが好きだしレイも俺のことを好きだと言ってくれる。そういう関係になれたのは嬉しいし今まで知らなかったレイを知ることができて素直に嬉しいと思う。 でも、この関係になって困ったことが一つ。 レイはたまに俺が絡んだことに異常なほど思考が飛ぶ。 つまり。 暴走する。 「あー・・・うーん。」 ヨウランは変な唸り声をあげている。 しっかりとその場の状況判断が出来る奴だから、この場で言う話題ではないと判断したんだろう。 流石だ、ヨウラン。 しかし、俺はまたもや忘れていた。 この場にいるのがヨウランだけではないということを。 「あのな、シンが女の子の胸触っちゃったんだって!」 ヴィーノの能天気な俺の頭を通り抜けた。 「・・・シン・・・。」 先程よりも数倍は低いレイの声。 ヨウランはしまったという風に額に手を当てて項垂れている。当のヴィーノはただにこにこと笑っていた。 けど、言い方あるだろ・・・! そんな言い方じゃ俺がただのスケベみたいじゃないか!! 「レイっ!だから、それは事故で!ぶつかってきた女の子を支えようとして・・・!」 「お前は・・・。」 ヤバイ。 俺の第六感が危険信号を出している。 「レイ、話を聞け・・・。」 俺は本当に必死になってレイに詰め寄った。 「俺の身体に不満でもあるというのか・・・!」 「わーわーわーーーーっ!!!」 慌ててレイの口を塞ごうとしても、それはもう後の祭り。 こうなってしまったレイがどうなるのか俺にもわからない。 「俺のどこに不満があるんだっ!どこぞの女より俺が劣るというのかっ?!」 「わーっ!!何言ってんだよっ!!」 「俺以外の身体に触れるとは・・・!浮気かっ?!」 「もうそれ以上言うなぁっ!!!」 レイの口から次々と繰り出される問題発言の数々に、俺は真っ青になりながらもレイの暴走を食い止めようと必死になった。 ヨウランとヴィーノは、普段の冷静沈着なレイとの違いか、それともレイの問題発言に驚いているのかがわからないけど。目を見開いて固まってしまっている。 そして貴重ともいえるレイの大声に人が集まってくる。 俺は本気で焦った。 俺たちの関係は秘密で。 知られてはいけなくて。 でも、この会話を聞いていれば俺たちの関係が嫌でもわかってしまう。 「お前、欲求不満なのかっ?!」 「っ!!バカっ!!!!」 「・・・そうか。欲求不満か。」 「だから違うってっ!!」 「シン、部屋に戻るぞ。」 「レイっ!お前勘違いしてるっ!!」 俺はレイに腕を掴まれ、引っ張り出されるようにできた人だかりの中を歩いていく。 目に映ったヨウランとヴィーノは未だに固まったままで。 周りの人達も同じように固まっていたり、笑ったりしていて。 俺は堪らず視線を下に落とした。 部屋に戻った後レイに散々無茶苦茶にされたのは言うまでもない。 (アスシン) 「・・・・・・・んっ・・・」 合わさった唇の隙間から零れる、悩ましい吐息。 それに誘われるように、アスランは更に深く唇を押し付ける。 「・・んっ・・・ふぁ・・・・」 何度も角度を変えられ口内を蹂躙されるような口付けに、シンは眉を寄せた。 今にも崩れ落ちそうな足。 それを支えるために、アスランの背中へと回した腕に必死にしがみ付く。 「・・・・・・・・・シン・・・」 交わされる口付けの合間に、アスランは何度もシンの名を呼んだ。 熱を含んだ、いつもよりも少し低めの声。 その声を聞いただけで、シンは自らの身体が熱せられるのを感じた。 舌を絡めるたびに、室内には卑猥な水音が響いて。 もっと、と。 ねだる様にシンはアスランの背中にしがみ付く。 「・・・シン。」 しかし、擦り寄るシンとは逆にアスランは困ったような声色で、その名を口にした。 深く合わさっていた唇は離れ。 自らの背中に回る細い腕をやんわりと解く。 その動作に、シンは未だに熱を孕んだ紅い瞳でアスランを見上げた。 そこには既に熱から冷め、苦笑しているアスランの顔。 「・・・もう、部屋に戻った方がいいんじゃないか?」 苦笑しながら言われた言葉に、シンは眉を顰めて俯く。 「あまり遅くなるとレイが心配するだろう?」 「・・・・・・。」 「・・・・・シン?」 余裕が感じられる声色。 それがなんだか哀しく思えて。 シンは俯いていた顔を上げ、アスランの顔をきつく睨みつけた。 「・・・戻ればいいんだろ、戻ればっ!!」 「・・・・・・・シン・・・ッ! そして、その声にも振り返らずにアスランの自室を勢いよく飛び出した。 ドアに隔てられ、一瞬のうちに見えなくなったシンの姿。 アスランは閉められたドアを目にしながら小さく溜め息を吐いて。 「・・・・・・・・・・・・・シン・・・」 掻き消されるような声で、シンの名前を口にした。 シンはアスランの部屋から出た後、足早に自室へと足を進めていた。 その表情は決して穏やかなものではなく。 怒りと混乱が合わさったような、酷く険しい顔。 先ほどのアスランの顔を思い出しては、眉間に刻まれた皺を更に深くする。 アスランとシンが恋人という関係になったのは、本当につい最近の事で。 出会ってから自然とアスランに惹かれたシンと。 そのシンに自らの気持ちを口にしたアスラン。 お互い想い合って、合意の上で恋人になった。 それからはつい数分前のような深いキスも交わしたりもする。 けれど、その先には一向に進まない始末。 シンがどんなに求めても、アスランはただ苦笑するだけで。 いつも先のように優しくシンの身体を離し、いつもの台詞。 『もう、戻ったほうがいいんじゃないか?』 その繰り返し。 シンは人知れず小さく溜め息を零す。 険しく顰められていた顔は、憂いを帯びた表情に変わって。 足早に進めていた足の速度も落ち、ゆるりとした歩調に変わる。 好きで好きで堪らなくて。 だからこそ、抱いて欲しいとも抱き合いたいとも思うのに。 そんな風に思っているのは、もしかして自分だけじゃないのかと。 アスランの、困ったように苦笑したあの表情を思い出す度に、そう考えずにはいられない。 再び吐いた重い溜め息に目を伏せる。 暗くなってしまった思考のまま部屋に帰る気にもなれなくて。 シンは休憩所までの道に変え、足を進めた。 「あれ?シン、どうしたの?」 目的地を目指して歩いていた足は、不意に背中からかけられた声に止められた。 「キラ・・・さん・・・」 「シン?」 足を止め、振り向いた先にはアスランの親友だという・・・キラが立っていて。 シンは無意識のうちにその名前を口に出す。 「何かあったの?」 どこか心配の色を浮かべたキラの表情。 シンはその表情を真っ直ぐに見ていられずに、視線を床に落とした。 何でもないです、と口に出そうとしても言葉が上手く出てくれない。 (レイシン) 眠れない日々が続いている。 シンは暗い闇の中、一人息を吐いた。 隣のベッドに目をやると目を閉じて眠っているレイの姿が見える。 毎日の演習は身体に負担がかかるもので。 その負担を取り除くためにも、睡眠は重要な役割を持っているというのに。 目を閉じると、あの日の出来事が鮮明に浮かんでしまう。 全てを一瞬の内に無くしたあの日。 瞼の裏に見えるばらばらになった両親と、妹の身体。 それと共に聞こえてくる爆音。 MSが風を切って飛ぶ音。 誰かの叫び。 そして、自分の叫び・・・。 シンは眉を寄せレイに背中を向ける。 そして身体を丸くし、持っていたピンクの携帯電話をきつく握った。 同時に全身が小さく震えだして。 縋り付くように、両腕で小さな機械を抱き締める。 「・・・眠れないのか?」 「・・・っ!」 突然かけられた声に驚いて、シンの身体が大きく跳ねた。 シンは恐る恐る声の方向を見て。 すると上半身を起こしたレイが、シンの顔をじっと見つめていて。 もしかして起こしてしまったのではないか。 その考えが頭をよぎり、シンは慌ててレイと同じように身体を起こした。 そして変わらず自分を見ているレイの顔を見て、申し訳無さそうに眉を寄せる。 「ごめん、起こした・・・?」 「いや・・・そうじゃない。」 シンの言葉にレイは否定の答えを返して。 その返事にシンは首を傾げた。 「じゃあ・・・喉渇いたとか?」 「それも違う。」 「・・・トイレ?」 「違う。」 思いつく理由の全てに否定を返され、シンはますます疑問に顔を顰める。 そんな表情を見せるシンに口を開くわけでもなく、レイは自分のベッドから立ち上がるとシンのベッドへと腰を下ろした。 「レ、レイ?」 シンにはレイの考えている事が分からなくて。 黙ったままのレイの行動に驚きつつ、その名前を呼んだ。 シンの声に答えるように、ゆっくりとレイの視線がシンの赤い瞳に合わさる。 「・・・眠れないんだろ?」 レイの言葉にシンを目を見開いた。 けれど、すぐに表情を明るいものへと変えて。 何処か険しささえも感じるレイの蒼い瞳に笑いかけた。 「眠れてるよ、大丈夫だって。」 レイにだけは知られたくなかった。 弱いところを見せたくなかった。 仲間で、同僚で・・・恋人でもあるレイにだからこそ、いつだって対等でいたいとシンは思っていたから。 だから、こんな弱いところを見せたくなかった。 夜も満足に眠れないほどに弱っている自分なんて、レイには見せたくなかった。 弱い自分を見せて、レイが離れていくのが怖かった。 しかしそんなシンの考えを嘲笑うかのように、レイは険しい顔を崩さない。 「笑えない冗談だな。」 「冗談なんかじゃ・・・」 「シン。」 溜め息混じりに出された声。 反論を返そうとすると、レイの声に遮られた。 「・・・強がるな。」 びく、とシンの体が大きく跳ねる。 「普段強がるのは、別に何を言うつもりもない。だが、今は違うだろ?」 だんだんとレイの瞳が優しいものに変わっていくことが分かり、シンは 「俺の前では強がらなくてもいい。泣きたいときに、泣けばいい。」 (キラシン) 「僕が死んだら、泣いてくれる?」 真夜中に明かりも何もつけず、頼れるものは闇になれた自らの目だけ。 そんな室内のベッドの上で、キラは俺にそう言った。 表情はいつもと何も変わらない。 いつもと同じ、穏やかで柔らかい笑顔。 お互いに何も身に着けていない裸の身体は、触れ合う体温がとても温かく感じる。 「・・・・・・なんで?」 「?」 「なんで、そんな事聞くんだよ・・・」 キラは、表情を変えずにただ笑っていた。 「・・・なんとなく、ね。」 「なんとなくでそんな事聞くなよ・・・」 「ごめんね?でも・・・僕は、君の大切なものを奪ったから・・・」 そして少しだけ寂しそうに・・・ 「・・・こんな僕が死んでも、君は泣いてくれるかなって・・・」 そう、言葉を繋いだ。 キラの言葉に、俺はその時何も感じなかった。 俺はキラが死ぬことなんてありえないって。 ずっと、そう思っていたから。 「・・・泣かない。」 だから俺の口からは、そんな言葉が出てきて。 「泣かない・・・泣かないよ、俺。だってキラは死なないだろ?」 「・・・え?」 「俺より先に死なないから。だから、泣かない。」 キラは死なないよ。 キラだけは俺の前から消えないよ。 だって、約束したから。 俺の前からいなくならないって。 約束しただろ? 得意気な俺にキラは柔らかく微笑んで、俺の頭を自分の胸へと引き寄せる。 聞こえる鼓動。 感じる体温。 それがなんだか、とても愛しく思えて。 俺は黙って目を閉じた。 「じゃあ、また新しい約束。」 「・・・何?」 「泣かないで・・・」 「・・・?」 意味が分からない、という意味を込めて俺はキラを見上げる。 けれど、キラは俺を強く抱き締めて肩に顔を埋めてしまっていたから、顔を見ることが出来なかった。 今思えば、どうしてちゃんと聞いておかなかったんだろう。 どうして、あんな事を言ったんだろうって。 そんな考えばかりで。 俺は目の前にある、キラの名前が書かれた石を前に、黙って座っていた。 「・・・分かってたんだろ・・・?本当は・・・」 何を言っても、欲しい言葉は、声は。 「だからあんな約束させたんだろ・・・?」 返って来ない。 「・・・でも、俺・・・守れない・・・!」 キラから破ったんだ。 ずっと、ずっと傍にいるって。 約束したのに。 キラは、俺の傍からいなくなった。 「・・・あんな約束守れないよぉ・・・ッ!!」 無意識の内に目から溢れ出てくる涙が頬を濡らしていく。 止めようと思っても止める事が出来なくて。 俺はどうすることも出来ずに冷たい石に刻まれた名前を震える指先で触れる。 「何もいらないのに・・・!!他には何もいらないのに!!」 金も。 友達も。 この腕も、この足も。 キラが綺麗だと褒めてくれたこの赤い瞳だって。 キラがいてくれるなら、何を差し出したって構わないのに。 「・・・もどって・・・きてよ・・・・・・・・・っ」 叶わぬ願い。 それでも、願わずにはいられなかった。 (アスシン) 「・・・シン?」 「何ですか?」 「いや・・・こっちが聞きたい・・・」 アスランの膝にはシンの小さな頭。 場所はアスランの部屋。 そして、二人の位置はベッドの上。 一日の仕事を終え部屋に戻ったアスランは、最後に渡された書類に目を通しておこうと、机の上に置いていた書類に手を伸ばそうとした所だった。 そこに突然前触れも何も無くシンが現れ、 『座ってください。』 と、言ったのだ。 『は?』 脈絡のない言葉に首を傾げたアスランを見て、シンは苛々とした様子で腰に手を当てて口を開く。 『ベッドに!座ってください!!』 何か分からずとも、とりあえず気迫に押された。 シンに言われるままにベッドへと腰を下ろすと、それに満足したようにシンもアスランが座るベッドへと上がり、その膝へと頭を乗せる。 ・・・そして、今のこの状況。 腰に強くしがみついてくるシンを、アスランはどこか困った様子で見下ろした。 その顔にシンは頬をアスランの腰につけたまま、目線だけをちらりと向ける。 「・・・こうしてちゃダメだって言うんですか?」 「言わないけど、不思議に思うだろ?」 シンが眉を顰めると、アスランは逆に眉を寄せて苦笑を見せた。 「普段こんなことをしてこない奴が、こんなに甘えてくると不思議に思うなって方が無理だ。」 言いながらアスランの手はシンの髪を優しく梳いて。 自分よりも少し大きな手に、シンは目を細めて擦り寄った。 それに驚いたのは誰でもないアスランだ。 いつも強気で恋人という関係だとしても、口を開けば可愛くない事ばかり言うシンが。 極度の照れ屋で、人前で肩に触れようとしただけでも凄い勢いで振り払ってくるあのシンが。 今はどうしたのか、こんなに甘えてきている。 「・・・何かあったのか?」 思わずそう口に出してしまうほどに、アスランは驚いた。驚かずにはいられなかった。 何処か具合でも悪いのかと、本気で不安になってしまう程に驚いた。 急に妙な焦燥感に襲われ、心配と顔に書いたような表情でアスランはシンの顔を覗きこむ。 けれどシンはその視線から逃れるように、再びアスランの腰に顔を埋める。 「たまには・・・素直になってみようと思っただけです・・ ・」 小さな声にアスランは最初目を見開いた。 まさか、シンからこんな事を言い出すとは思わなかった。 けれど自らの腰に強く顔を押し付けるこの愛しい恋人の行動は、確かに嬉しいものであることには変わりない。 「素直に・・・ね。」 アスランは自然と口元に笑みを零し、シンの黒髪に指を絡めた。 シンは顔を伏せたまま小さく言葉を紡いでいく。 「・・・アスランさんの手が、好きです・・・」 「手?」 「温かくて・・・優しくて・・・好きです・・・」 照れからか、語尾が小さくなっていくシンの言葉。 素直に自分の思いを伝えようとしていることがよく分かって、アスランは柔らかく微笑んだ。 「本当に素直だな。」 「・・・今日だけ、ですよ・・・っ!」 今日だけ、を強調して言う。 「でも、どうして急に・・・ルナマリアとかに何か言われたのか?」 「っ!!」 何気なく言った言葉に、シンは勢いよく身体を起こした。 膝に感じていた心地好い重みが消え、目の前には俯いたままアスランの軍服の裾を掴んでいる、シンの姿。 突然のシンの動きにアスランは目を丸くする。 「シン・・・?」 僅かに表情を顰めながら名前を呼ぶと、シンはアスランの顔をきっと見上げた。 「俺と二人の時は、他の奴の名前を呼ばないで下さい!!」 子供の癇癪にも似た言葉だった。 けれど言葉は強くても、その瞳は今にも崩れてしまいそうに揺らいでいる。 滅多に見ることのない瞳から縫い付けられたように、目が離れなかった。 「・・・いつもなんてそんな事言ってませんよ!今だけでいいから!!」 赤い瞳は真っ直ぐに目の前のアスランだけを、映し出す。 それが場違いかもしれないけれど、とてつもなく嬉しいと思ってしまう。 「二人だけ、でいる時くらい・・・俺だけ見ててください・・・」 「・・・シン」 アスランは俯いたシンの黒髪を優しく撫でる。 掌からたくさんの想いが伝わればいい。 こんなにもお前の事を愛しているのだと、伝わって欲しい。 少しの間そうしていると、シンがゆっくりと息を吸ったのが分かった。 「俺・・・人に囲まれてるあんたを見るのが嫌いです・・・」 「ああ」 ぽつり、ぽつりとシンが言葉を零して行く。 「アスランさんを、遠くから見るのが嫌いです・・・」 色んな人に囲まれていて、自分は遠くから見ているだけ。 少しでも見て欲しくていつも命令無視したり、反抗したり、困らせることばっかりで。 途切れそうになるシンの声を聞き漏らさないように、アスランは緩む口元を抑えながら黙って小さく頷いた。 「けどアスランさん、いつも・・・いつも怒るけど、結局は優しくて。本当は、それすごく・・・嬉しいんです。俺にだけって思ったらすごく嬉しくなるんです・・・でも、」 言えなくて、とシンは消え入りそうに呟いた。 「・・・あんなこと、言うつもりじゃなかったのに・・・」 その口から自分以外の名前が出るのが、どうしようもなく嫌になって。 シンが俯いたまま自分の軍服の裾をきつく握り締めた。 「・・・呆れました・・・?」 「何に?」 「・・・・・・・俺に」 「・・・シン」 名前を呼ばれて恐る恐る顔を上げる。 怒っているだろうか。 それとも呆れているだろうか。 そう思いながら見上げた視線の先には、想像とは違い優しく笑うアスランの表情。 それが、ゆっくりと近づいてきて。 「ん・・・っ」 静かに唇が重なった。 唇を合わせながらアスランはシンの胸元に手を這わせる。 それに始めはびくりと反応を見せたが、シンの腕は答えるかのようにアスランの背中に回った。 「・・・いいのか?」 いつもは、始め嫌がるのに。 そう言ったアスランの背中に、更に強く力を入れてしがみついた。 あんなに優しい顔を。 こんなに優しい声を。 自分から遠くになんて、できるわけない。 それに、今日は素直に想いを伝えるって決めたから・・・ 「今日は素直な日なんです・・・!」 シンがアスランの肩に額を寄せると、アスランはその細い身体を柔らかく抱き締めた。 「・・・そうだったな。」 言葉と、そっと髪に口づけるアスランの唇。 それを感じながら、シンは静かに目を閉じた。 「は・・・・っ!あ・・・・ぁ・・・」 後孔には既にもう二本の指が入っている。 それで中を掻き回すように動かせば、シンの身体は弓なりに仰け反った。 「・・・あ、あ・・・、んんっ!!」 仰け反った胸の突起を舌で舐め上げられて。 大きく出そうになった声を、シンは咄嗟に自分の腕で抑え込んだ。 それにアスランは苦笑を見せる。 「今日は素直になるんだろ?」 「や・・・っ!」 後孔から指を引き抜き、言葉と共にシンの腕を取る。 シンは羞恥に顔を赤く染め、首を振った。 何度か、数少ないがこうして身体を重ねる事はあったけれど。 シンはいつもどうにかして声を抑えようと必死なようで。 その抑える姿も愛しいと思うのも本当。 でも素直になるのなら、今日くらいはその声を聞かせて欲しい。 アスランは未だに顔を赤く染めたまま、シーツに頬を押し付けているシンの耳元に、唇を寄せた。 「声・・・、聞かせてくれ・・・」 直接、頭に響くような。 そんな声にシンは目をきつく瞑る。 そして震える両腕をベッドの上に下ろし、白いシーツを強く握り込んだ。 アスランは赤く染まったその目元に優しく口付けを落とす。 「・・・いいか?」 充分に慣らしたそこに、アスランは自身を押し付けて。 それに、シンはびくりと身体を揺らしたが、小さく頷いて見せる。 「・・・あぁあ・・・っ!!」 アスランはシンが首を縦に振ったのを見て、ぐっと腰を進めた。 入り込んだ異物に、シンの口からは苦痛とも取れる声が漏れる。 「や・・・、あ・・・・ぅあ・・・」 ゆっくりと奥深くまで入り込んでくるそれ。 「・・・は、あっ・・・や、ぅ・・・っ」 身体を震わせながら耐えていると、全てを収めきったのかアスランの動きが止まった。 「・・・はぁ・・・」 真上からアスランの熱の篭った吐息が聞こえて。 こめかみには触れるだけのキス。 小さく感じたアスランの唇の感触に、シンは更に強くシーツを握った。 「動くぞ・・・」 同時に、深くまで入っていたそれが、限界まで引き抜かれる。 「ひぁ・・・っ!!」 急な刺激にシンの白い首筋が反り返って。 そして再び奥深くまでの挿入。 「あぁ、ん・・・っ!!や・・・あっ・・・ぁあ!」 何度もその動きが繰り返され、その度にシンの口からは声が零れた。 抑える腕も無い。 最初に感じた苦痛も、今は快楽に流されて。 「シン・・・」 不意に呼ばれた名前に、シンは涙で濡れた赤を薄く開いた。 「・・はっ、あ・・・ぁ・・・・もっ・・・と・・・っ」 途切れ途切れに言葉にしながらアスランの背中に腕を伸ばす。 「もっと・・・な、まえよんでくださ・・・・・・」 誰でもない。 その口から自分だけの名前を呼んで欲しくて。 力の入らない腕で必死に自らにしがみついてくるシンの身体を、アスランはきつく抱き締めた。 「・・・シン」 耳元で名前を呼ぶと、シンの身体はふる、と震えて。 そうしてアスランは、その体の最奥まで自身を突き入れた。 「ぁ・・・ああっ!」 シンの両手が、爪跡を残すほどにきつくアスランの肩にしがみ付く。 「シン・・・」 もう一度。 アスランは愛しいその名を呼びながら、限界を訴えているシンのそれに指を絡める。 「やあぁ・・・っ!」 何度か強弱をつけて手を動かす。 射精を促すその動きに、シンはアスランの掌に呆気なく吐き出して。 「・・・はぁ・・・はっ・・・・・・ぁ・・・」 射精の余韻で荒く息を吐くシンの唇に、アスランは小さなキスを落とした。 何度か行為を繰り返した後に、シンの意識は飛んでしまって。 アスランは隣で穏やかな寝息を立てているシンの頬を、そっと指先でなぞった。 「いつも・・・お前だけ見てるよ・・・」 他のものなんて目に入らないくらい。 それ程まで溺れてしまっているというのに。 こんなことを言ったら、シンはどんな反応を見せるだろうか。 アスランは一人笑みを零し、眠っているシンの身体を抱き寄せて。 そして、自らも目蓋を下ろした。 (アスシン) 唇から零れる言葉は溢れる憎悪。 紅い瞳には、堪え切れない哀しみの渦。 思い出す、あの頃を。 復讐こそが自分のやるべき事なのだと。 奪われた哀しみだけを見つめていたあの頃。 彼が身に着けているその赤も、いつかきっと誰かの血に染まる。 ・・・自分と、同じように。 「・・・・オーブに・・・、帰るんですか?」 初めて言われたその言葉に俺は答えずに背を向けた。 なんて答えたらいいのか。 素直に、帰るよ、と言えばいいのか。 オーブを憎みカガリへの憤りを隠さずにぶつける、真紅の瞳を持つ少年・・・シンに。 素直にオーブに帰ると。 事実であったとしても、そう答えるべきなのか。 考えても分からない。 答えが見つからない。 それに、どうしてこんなにも行き詰まっているのかすら分からない。 「・・・・・・くそ・・・っ」 俺はそのもどかしさを振り払うかのように頭を何度か横に振った。 与えられた部屋はカガリと同室だけれど、今はカガリが不在で俺一人。 ベッドに腰掛け俯く。 目を閉じると、浮かぶのは瞳。 紅い、血のように紅いシンの瞳。 初めて見た彼の瞳は憎しみに満ち溢れていて。 歪められた唇からは、隠す事など決してしようとしない悪態。 でもその姿がどこか哀しみを訴えているように見えたのは、きっと二年前の自分と似ていたから。 憎んでいた。 俺から、大切な人を奪った全てを憎んでいた。 だから、奪う事にも躊躇することは無かった。 奪われたのなら、奪い返す。 それが出来ないのなら全てを・・・・・壊す。 なんて愚かな事。 それで何が変わるというのか。 けれどあの頃は、それすらも分からなかった。 間違っているなんて考えた事無かった。 シンのあの瞳も同じだ。 憎んでいる。 どうしようもない熱を抱え込んでいる。 俺は小さく溜め息を吐いた。 だからと言って、今の俺に何が出来る。 シンに何を言えばいい。 憎んでもしょうがない、繰り返されるだけなのだと。 言ったところでどうなる。 何も変わらない、寧ろ状況は悪化する。 俺には、何も出来ない。 結局、無力な自分を曝け出すだけの答えに唇を噛み締めた。 膝に落とした視線はそのままで、閉じていた瞳を薄らと開ける。 「・・・アスランさん・・・・・・?」 頭上から声がした。 開けた視界には、影が架かった自分の膝。 顔を上げると、紅い瞳で座った俺を見下ろしている一人の少年。 「・・・・・シン・・・?」 「アスランさん、座ったまま寝てたんですか?」 「いや、そんなことはないが・・・。」 「だって何度呼び出しても出てこないし、いないかと思ったら部屋にいるし・・・。」 (アスシン) 初めて好きになった人が彼女持ちだなんて。 そんなの、辛すぎる。 俺はザフトの軍人だから、その人の名前は何度も聞いたことがあった。 ザフトのエース。 パトリック・ザラの息子。 アスラン・ザラ。 力を求めてザフトに入った俺が、力のある者に興味を持つことは自然なことで。 もうザフトではなく、今は行方が分からないアスラン・ザラ。 会うことなんてなんて無いと思っていた。 けれど、こうして目の前にある翡翠のような瞳は。 間違いなくアスランのもので。 「・・・あの・・何か?」 無重力の中。 アスランの前を通り過ぎようとした俺の腕は、突然その手に掴まれた。 戸惑う俺の言葉にも、アスランは何も返さない。 それでも俺の腕はアスランの手に掴まれたまま。 どうしよう。 「用が無いならは・・・っ!」 用が無いなら離せ、と。 そう言ってやるつもりだったのに言えなかったのは、口が塞がれたから。 掴まれた腕を、引き寄せられ。 軽く重なった唇。 あまりにも予想できなかった出来事に、俺の頭は真っ白になって。 「・・な・・・・・に・・?」 途切れ途切れにしか言葉を出すことが出来なかった。 睫が触れ合いそうな程に近いアスランとの距離。 「・・・いや、つい・・・。」 何を言うことなくキスなんてしておいて。 どんな答えが返ってくるかと思えば、腑に落ちない答え。 俺の真っ白だった頭に、一気に血が沸きあがる。 「あんたは、ついでこんなことするのかよ?!」 俺の言葉にアスランの綺麗な顔は罰の悪そうな顔になり、俺の顔から眼を逸らす。 逸らすなら腕も一緒に離してくれればいいのに、俺の腕は未だにアスランの手に捕まったまま。 「・・・体が勝手に動いて、気付いたら。」 「・・・っ?!」 気付いたらキスしていたというのか、この男は。 「何だよ、それ?!訳わからないっ!!いいから離せよっ!!俺用事あるんだからっ!!」 俺の腕を掴んでいた手を振り払って、そう怒鳴りつけた。 そしてアスランの顔を見ることもせずにその場を後にする。 「・・・なんなんだよ・・・っ!! アスランが完全に見えなくなってから、俺はその場に蹲るように座り込んだ。 アスランの唇が触れた、自分の唇を手で押さえる。 触れたのはほんの一瞬だったのに。 とてつもなく熱を持った自分の唇。 アスランの唇の感触まで思い出せて、それを頭から追い払うように頭を振った。 それでも、それからアスランの姿を見るたびにいつも思い出した。 忘れようと何度もしたのに、忘れることなんて出来なくて。 思い出すたびに唇が熱くなった。 散々悩んで、悩んで。 なんでこんなにも気になっているのか、自分でもわからなくて。 「なーに、シン。恋でもしてるの?」 悩みに悩んでいる俺を見たルナマリアが、からかって言ったその言葉。 「・・・恋?」 「え?図星?」 「なあ、恋って・・・誰かを好きになるってことか?」 「・・・あんた、何歳?」 呆れ口調のルナマリアにも、反論することは出来なかった。 「・・・好き・・・?」 そうか。 好きだから、こんなに気になるのか。 初めて自覚した思い。 そして、思い出すアスランの姿。 その姿を思い出して俺は苦笑した。 いつもアスランの隣にいる存在。 オーブの姫・・・アスランの、恋人。 「・・・俺って、ほんと馬鹿・・・」 初めての恋を自覚した直後に。 初めての失恋。 胸に広がるこの思いは、一生叶うことはない。
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