ねこ 2




 小さな身体は、一命を取り留めた。


 前足の怪我も掠り傷で済んでいて、一週間もしないうちに自由に歩けるようになると言われた。
 あれほど衰弱して、弱っていた鼓動も今は心配の必要がない程で。

 「もう少し遅かったら、手遅れになるところだったよ。」

 初老を迎える程の歳だと思う、獣医の男性が俺に向かって柔らかく言葉を発した。


 「暖めていた事も、良かった。この命は君が救ったんだよ。」


 微笑みながら言われたその言葉。
 その言葉に、俺は目を見開いて。

 診察台の上で安らかな寝息を立てている、その身体に俺は恐る恐る指を伸ばした。
 

 「・・・温かい・・・」


 指先に触れた、最初に感じたよりもずっと温かい温もり。
 それを感じて俺はぽつりと言葉を零した。
 

 「本当に、生きてるんだよな・・・?」


 言いながら、涙が溢れ出てきた。


 「ここに・・・、いるんだよな・・・?」

 「シン・・・」
 

 俺の後ろに立っていたキラさんの手が、俺の肩に優しく触れた。
 見上げると、本当に嬉しそうに笑っていて。
 逆の方向を見上げれば、アスランさんも同じように笑っていて。


 俺も涙を流したままの顔で、笑い返した。





 念のため、3日ほど猫は入院する事になって。
 3日後には、もっと元気になっているよ、と。
 先生はそう言ってくれた。

 そして、3日後に引き取りに来る事を約束して、俺はその動物病院を後にした。






























 待ちに待った3日の時間がようやく過ぎて。

 再びアスランさんの車で、あの猫の待つ動物病院へと向かった。




 三日ぶりに見た猫は、あの日の弱りきって泥で薄汚れた姿ではなく。
 綺麗に洗われて、乗せられた診察台の上に行儀良く座っていた。



 「随分と綺麗な猫だったんだな。」
 「うん、あの日は汚れてて分からなかったけど・・・本当に綺麗だね。」



 アスランさんとキラさんが感心したように言った言葉を聞いて。
 俺も一緒に頷いた。

 優しく喉の辺りを撫でてやると、猫は嬉しそうに喉を鳴らす。
 


 金色に煌めいて見える、少し長めの柔らかい毛並み。
 曇るところは何も無く・・・本当に綺麗な姿で。
 

 そして、初めて見るその瞳は、透き通るような、蒼。



 「シン、名前・・・何にする?」



 名前・・・
 キラさんにそう言われて、俺はすぐに口を開いた。






 「レイ・・・レイがいい。」


 



 今日、この場所に来て、姿を見たときに自然とその名前が浮かんだ。

 光のように綺麗な姿。
 その姿に相応しい名前なんて、この名前以外に思いつかなくて。


 いい名前だね、と言ってキラさんは優しく微笑んで。
 隣のアスランさんもそうだな、と頷いて。




 「よろしくな・・・レイ。」




 喉を撫でながらレイに向かって笑うと。


 レイは小さく鳴いて、答えてくれた。






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