絶対的なもの 1 世の中には絶対なんて言えるものは何一つない。 そんなこと、分かってるつもりだった 「・・はっ、・・あぁっ、ん・・・っ」 レイに体を貫かれたまま揺さぶられて、抑えることなく声を出す。 まるで女みたいな声だ、と思いながらほとんどが快楽に染められた思考で、止めることなんて出来なかった 声を出すことでもっと快楽に浸っていけるようにすら思える。 「や・・ぁっ・・もう、・・だめ・・・っ!」 「・・・っく・・」 「ああぁっ!」 レイが低く唸って俺の中で達したのと同時に、俺自身もきつく握られてレイの掌に精を放った。 「・・・ぁ、はあ・・はぁ・・・はっ・・・」 「・・・シン。」 「・・な・・に・・?」 まだ俺の中に自身を埋めたままのレイが、上から俺を見下ろしている。 それに答えようと俺は乱れる息を必死で整え、きつく閉じていた瞳を薄くあけた。 そこにはいつもより少しだけ、本当に少しだけだけど柔らかい表情のレイ。 汗に濡れて頬や額にはりついている長い金の髪や、アイスブルーの瞳がとても綺麗だと思った。 間近にその姿を見ただけで、なんだか無性に嬉しくなる。 レイの柔らかい髪に手を伸ばして指を絡めると、レイは口元だけで笑った。 「 まだ、足りないのか?」 「・・・ぅあ・・!」 一度収まった快楽を思い出させるように、レイは腰を緩く揺らす。 ベッドに仰向けになり足を大きく広げられて、レイを受け入れたままの体制だった俺はそれだけで、体が震えるのが自分でもわかる。 「も、もう・・・いや・・・だ・・・っ」 「そうか?足りないようだが。」 「・・・ば、かやろ・・・っ!」 一度冷めかけた熱がまた容赦なく襲ってくる。 体中が熱い。 見なくても全身が赤く染まっているのがわかる。 「・・・早く抜けって・・・ああぁっ」 これ以上されては、もう後戻りできなくなる。 そう思って必死にレイの胸を押し返したのに、突然レイは深く俺の中にはいってきた。 予想もしていなかった動きに背中がしなり、俺は強くシーツを握って耐えた。 耐えようと思っても、与えられる刺激に身体はすぐに反応し始める。 頭の中が快感で埋め尽くされて何も考えられなくなる。 「シン・・・」 もう戻れない。 名前を呼ばれてレイの背中に纏わり付くように腕を伸ばした。 いつからだっただろうか。 レイと、身体を重ねるようになったのは。 どんなきっかけがあったのかなんて分からない。 ただ、突然抱きしめられて、キスされて、抱かれた。 本当に突然のことだったのに、レイはルームメイトで同僚で、何より俺と同じ男なのに、嫌悪感とかそういうものは感じなかった。 それは、きっと俺がレイをそういう風に見ていたから。 こうなることを望んでいたからだ。 「・・・レイ」 名前を呼べばキスしてくれる。 行為の余韻が残る深い、唇を舌でなぞられ舌を絡めて、お互いを貪りつくすようなキス。 角度を変えるたびに濡れた音が部屋に響く。 「・・ん・・っふ・・ぁ・・・」 ずっとこうしていたいと思っても、それは無理なことで。 だけど離れていく唇に、どうしようもない寂しさを覚えた。 「・・・シャワー浴びてくる。」 「・・・」 離れていくレイの後姿を黙って見送って、俺は小さく溜め息をつく。 レイはいつもそうだ。 長く余韻なんて残さないで、身体を離せば簡単にいつものレイに戻ってしまう。 俺はレイと寝たことがなかった。 セックスの意味ではなくて、本当に純粋に隣あって『眠る』という行為を、俺はレイとしたことがない。 あまりに激しく攻められて俺が意識を失った時だって、気が付くとレイは自分のベッドで眠っていた。 俺の身体は綺麗にされていたし、しっかりと服も着せられてシーツも綺麗なものに変えられていた。 まるでセックスが終れば、もう用済みだと言われているような気がして、不意に泣きたくなった。 そもそもレイは事が終わったあとに、必要以上に俺に触れようとはしない。 この部屋を出れば、そうしなくてはいけないことくらい俺にだってわかる。 必要以上の接近は周りに混乱を与えるだけだし、晒し者にだってされたくない。 常に一緒にいることなんて無理だ。 だから、ここにこうしている時くらいもう少し側にいたい。 二人でいる時くらいはレイを近くに感じたい。 それとも俺は本当に、只の処理道具としか思われていないのか。 「いい加減服くらい着たらどうだ」 一人で悶々と考え込んでいると、レイがシャワーから出てきていたらしい。 未だ裸のままシーツだけを纏っている俺を見て、レイは相変わらず感情の読めない声で言う。 考え込んでいてレイがシャワー室から出てきたことに気付けなかった。 何もかもを洗い流したようなその姿。 まるで先程の時間までも洗い流したようなその姿を見ていられなくて、俺は思わず顔を背けた。 「・・・体中ベタベタしたまま服なんて着れるかよ。」 「それは悪かったな。早くいったらどうだ。」 「言われなくても・・・っ!」 レイをきつく睨み、俺は汚れたシーツだけを身体に巻きつけ、シャワー室まで歩いていった。 少し冷たいシャワーは火照った身体には心地好かった。 けれど、頭は考えたくないことまで考えてしまう。 シャワー室から出た後の部屋の光景が頭に浮かんだ。 きっとシーツは綺麗なものに変えられていて、濡れていたレイの髪も乾かされていて。 「・・・俺だけ・・・?」 こんな風に悩んでいるのも。 一緒にいたいのも。 好きなのも。 そう思うと不意に目頭が熱くなって、ごしごしと両手で顔を擦った。 冷たいシャワーを顔に浴びたまま、俺は目を閉じて考える。 最近ずっとこのままでいいのかと考えていた。 始めは嬉しかった。 最初は体が引き裂かれるような痛みに堪えきれずに泣き叫んだけれど、いつもとは違う優しい声で名前を呼ばれて、抱きしめられて。 本当に痛かったけれど、それ以上に嬉しかったから痛くてもいいと思った。 レイが優しくて。 俺に触れる手も口も、何もかもが優しくて。 本当に嬉しくて。 レイからこうして与えられるなら痛みですらも、あの時は嬉しく思った。 今ではセックスにも慣れて痛みはあまり感じなくなった。 レイは俺が良いと思う場所ばかりに触れて、その度に俺はレイに纏った。 そうして慣らされていく度に混乱してわからなくなる。 どうしてレイがこんなことをするのか。 俺からも言ったこともないけれど、レイから好きだとか、そういうことを何も言われたことがない。 それすらも始まりが突然すぎて、なかなか気付けなかった。 何度か繰り返していくうちに気が付いた。 終わった後の冷めたようなレイの態度や、言われない言葉。 どうして俺を抱くのか。 どうしてそんなに優しく抱くのか。 どうして終わった後冷たくするのか。 嫌だった? 気持ち悪かった? それならどうしてまた抱いたりするんだよ。 やっぱり道具くらいにしか思ってないのか? ・・・俺のこと、どう思ってる? 問い詰めてやりたいけど、どれも女々しい。 聞きたいけれど聞けない言葉が俺の頭の中をぐるぐると回るだけだ。 素直に口に出すことなんて、素直なんて言葉とは無縁な俺には到底無理な話で。 それに、聞くことが出来たとしても、もしも聞きたくない答えが返ってきたら・・・ 想像して頭を振った。 そんなこと聞けない、レイの口から答えを聞きたくない。 俺を抱くときの優しいレイだけ信じていればいい。 それだけを信じていればいい。 そう思っても求めてしまう。 レイを信じることができる絶対的なものが欲しい。
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