絶対的なもの 8 キスなんて数え切れないくらいに何度も、した。 だけどこんなキスは初めてだ。 「ん・・・・・・ふぅ、は・・・・・ぁ」 お互いの舌を絡めながら、何度も角度を変えて、その度に合わさった唇の隙間から自分の声とも息ともつかない音が聞こえた。 「シン・・・・・・」 レイが俺の名前を呼び、俺は答えるように更に深く唇を押し付ける。 「・・・ん・・・・・ん・・・」 押し付けたそれを、レイは拒まなかった。 背中に感じるレイの腕の力が強められるのを感じる。 俺の口の端からはどちらのものともいえない唾液が流れ、顎の方まで伝い落ちていった。 けれどそれすらも気にならないほどの、長く、深いキス。 レイとは何度もキスを交わしてきているのに、こんなに心地好く感じるのは初めてだ。 「・・・レ・・・・ィ・・・・・・・っ」 名前を呼びながら少しだけ唇を離した。 そして、薄らと目を開けるとすぐ目の前に、レイの綺麗な瞳が見えた。 「シン、愛してる・・・こんな感情があるだなんて、信じられない・・・」 真っ直ぐに目を合わせながら告げられた短い言葉。 ずっと、欲しかった言葉。 けれど与えられる事など無いと、諦めていた。 それが、誰でもないレイの口から紡がれ、涙が溢れ出すのと同時に自然と足から力が抜けて、床に崩れ落ちそうになる。 「・・・・シン・・・っ!!」 力の抜けた俺の身体は、レイの腕で支えられた。 「・・・大丈夫か・・・?」 「ん・・・・・・」 言いながら小さく頷くと、レイは俺の涙を吸い取るように。 優しく、ふわりと目元に唇を寄せた。 唇を離すと、額にレイの手が当てられる。 その手のひらから感じる少し低めのレイの体温。 それが気持ちよくて、目を細めた。 けれど、レイは眉を寄せる。 「・・・また熱が上がったみたいだな、これ以上は・・・」 「だ、だめだ・・・っ」 その言葉に、無意識で声が出て、俺はレイから離れないようにと、レイの軍服の胸元をきつく握り締めた。 レイは突然の俺の行動に驚いたのか目を見開く。 「これ以上、待たせるなよ」 いつも一人で寝ていたベッド。 そこに、今一人で入りたくなくて。 「・・・一緒に・・・レイも、一緒に・・・」 そう声にしながら、レイの肩口に顔を寄せた。 仰向けにベッドに横になり、その俺の体の上にはレイがいる。 レイの手はゆっくりと、けれど慣れた手つきで俺の上着に手を掛けていく。 そうやって徐々に乱されていく俺の軍服とは違い、レイはしっかりと着込んだまま。 それに気付いた俺は、恐る恐る留められている詰襟に手を伸ばした。 「どうした?」 手を止めて、レイは俺の顔を見下ろす。 「・・・俺、レイの服とか、脱がせた事・・・ないから・・・・」 「ああ、そうだな。」 レイは小さく頷いた。 その間も俺は懸命にレイの服を脱がせようと手を動かしてみた。 でも、思う通りに手は動かなくて。 「意外と・・・・・・・」 難しい。 レイにはあんなに簡単に出来ていたのに、同じ服を着てるというのに、なんでこうも難しいものなのか。 そう考えるとなんだか腹立たしくて眉を顰めると、レイは表情を和らげて俺の額に小さくキスをした。 「そんなもの、これからいくらでも練習させてやる」 「・・・あ、う、うん・・・」 どこか楽しそうな声を出すレイに俺は頷く事が精一杯だった。 素肌で感じる白いシーツは、ひんやりと冷たい。 けれど、冷え切ったそれは、徐々に俺とレイの体温に染まっていく。 熱く背中に、肌にとに纏わりつくのにはそう時間はかからなかった。 「はっ、あ・・・・・・うあ・・・・・っ」 俺自身をレイの唇と舌で愛撫され、俺は背を仰け反らせる。 レイの唾液、そして自身から溢れ出る先走りの液が、卑猥な水音を室内に響かせた。 「や・・・・あ、あ・・・・・・・」 まるで聴覚までもが犯されていくようで。 それに耐え切れなくて片耳をベッドに押し付け、手元のシーツを強く握った。 レイの唇に俺は狂わされてしまうのではないかと、そう思えるほどの絶え間なく続く快感。 「・・・ぁう、・・・や・・・っ、もう、で・・・で、る・・・・っ!」 だから口を離して、そういう意味を込めて言ったのに、レイの口は未だに俺を銜え込んだままで。 しかも更に射精を促すように、先端をきつく吸われる。 「・・・ああぁ・・・っ!」 その刺激に耐え切れず、俺はレイの口内に精を吐き出してしまった。 そして小さな音と共にレイの唇が俺から離れる。 「・・・・・・ごめ・・・ん、おれ・・・」 「気にするな・・・それよりシン、もっと足を広げろ。」 「・・・ん・・・・・」 射精の余韻で頭が真っ白になっていて、俺は素直に言われるままに大きく開いていた足を更に広げた。 「あ・・・っ」 広げた足の付け根辺りをレイの舌になぞられる。 背中にぞくぞくと弱い電流が走っているようだ。 何度も同じ場所に繰り返される、小さい・・・でもじわりと快感が滲み出てくるもどかしい愛撫。 「あ・・・ぁ・・・、ん・・・」 ちゅ、と音を立てて吸われる度に声が漏れる。 気持ちいい。 けど、物足りない。 セックスに慣らされた身体は、大きな刺激を絶えず求めて悲鳴を上げる。 「や・・・もう、そこ・・・ぃや、だあっ!」 これだけじゃ物足りない。 もっと強い快感が欲しい。 俺は半ばねだるように、上半身を浮かせて足の間にあるレイの頭を両手で掴んだ。 「もっと・・・・もっと、ほ・・・しぃ・・・っ」 レイは少し顔を上げ、俺の顔をちらりと見て、 「あまり煽るな、抑えが効かなくなる・・・」 と、溜め息混じりに声を出した。 その言葉を聞いた俺は、レイの頭から首へと手の位置を変える。 そして、そのままレイの唇へと自分のそれを重ね合わせた。 「いい・・・っ、抑えなんていらない・・・っ」 合わせただけの唇を離し、言葉を紡いでゆく。 「いいよ、抑えるなよ・・・俺、レイにだったら壊されてもいい・・・っ!俺の事好きなレイになら、めちゃくちゃにされてもいいから・・・」 そう言って、もう一度俺から軽いキスをして。 「・・・んっ・・・」 レイの舌が口腔に入り、軽いキスが深いキスに変わる。 浮かせていた背中も再びベッドへと倒され、レイの長い髪が俺の頬をくすぐる。 「・・・ん、ん・・・ふぁ・・・ぁっ」 キスの合間にもレイの手が俺の足の間へと延びる。 つい先程、一度精を吐き出したというのに再び勃ち上がっている俺自身に軽く触れ、その奥へと指先が進んでいく。 回りを指先で撫でた後、2本の指がぐち、と音を立てて俺の後腔へと突き入れられた。 「うあ・・・っ!」 急な刺激に唇を離し、眉を寄せた。 「あ・・・っ、あぁ・・・っ」 レイの指は容赦なく俺の敏感な場所を押し当てる。 その度に強い快感が押し寄せて、俺はびくんと身体を大きく揺らした。 それを何度か繰り返され、2本の指が引き抜かれた頃には俺の息は乱れきっていた。 肩で大きく呼吸をしながら、ぼんやりとした瞳をレイに向ける。レイは俺の目線に答えるように俺の頬に唇を落として。 指で慣らされ次の快感を待つ俺の後腔に、レイは自身を押し付けた。 「入れるぞ・・・」 その言葉に答える前に、奥深くまで貫かれる。 「あああっ!!」 俺は急な挿入に悲鳴を上げた。 痛みはそれほど強くない。 けれど幾ら行為を繰り返しても拭いきれない、始めに感じるこの異物感。 そして繰り返される激しい抜き差しに、俺の思考は完全に閉ざされる。 「う・・・、くう・・・っ、あ、は・・・っ!」 「シン・・・」 自然と溢れ出てくる涙は、レイの唇に吸い取られていく。 「あ、あ・・・はあっ」 その涙が快感からくるものに変わるのも長い時間ではなかった。 レイ自身が俺の感じる場所を掠るだけで、俺の身体は喜びに打ち震える。 「ああっ、あっ、うあ・・・ひぁ・・・」 自分の口から出ているものとは思えないような甘い声が部屋に響き渡る。 「・・あ・・っ、レ・・・・イぃ・・・っ」 「シン・・・シン・・・・・」 何度も名前を呼び合い、お互いの身体を抱き締め、口付け合う。 「れ・・・い・・・すきっ、す、き・・・っあぁ・・・っ!」 あの時言えなかった分まで言おうと、言葉を出した途端に最奥まで突かれ、二度目の精を吐き出すのと同時に、意識が遠くなっていくのを感じた。 薄らと目を開ける。 目に映るのは真っ暗な闇。 それと、何かに包まれているような温かさ。 ぼんやりとした頭ではそれが何なのか分からずに、俺は身体を動かそうと身を捩じらせた。 「・・・起きたのか?」 聞こえた声に、ぼやけていた頭は視界をはっきりとさせる。 視界に映ったのは、レイの顔。 感じる温かさはレイの腕だと分かり、先程の激しいセックスを鮮明に思い出してしまう。 全身がかあっと熱くなるのが分かった。 「レ・・・レイ・・・?なんで・・・」 行為の後にこんな風に、レイに抱き込まれていることなんて初めてだ。 混乱している俺に向かって、レイは口元に笑みを浮かべる。 「もう、抑えなくてもいいんだろ?」 目を見開いた俺の指に、レイは自分の指を絡めた。 そんな些細な事が、なんだか嬉しくて。 「・・・レイ・・・、あのさ・・・」 「なんだ?」 自分も指を絡め返し、瞳を閉じて、レイの額にこつん、と小さく音を立てて自分の額を合わせる。 「俺、言葉が欲しかった。レイは、俺を抱くときはすごく優しかったけど、何も言わないから不安で・・・俺だけが・・・レイのこと好きなんじゃないかって思うようになって・・・身体だけとか、嫌になって・・・」 レイは黙って聞いていた。 俺は目を閉じているから、その表情は見ることは出来ない。 「・・・でも、俺だけじゃ・・・ないよな・・・?」 好きだと、愛していると何度も言ってくれた。 それを確かめるように、小さく声を出す。 「好きだから不安だったのって、俺だけじゃないって・・・思っていいんだよな?」 今更なのに。 本当に今更なのに、返事が怖くて。 けれど今、目を開けないと絶対に後悔してしまう。 俺は恐る恐る目を開けた。 するとレイは俺の手を握る力を優しく強める。 「思っていろ、間違いじゃない」 見たことのないような柔らかな表情で、レイは俺にそう言った。 それから俺は堰が切れたように、今まで言えなかった言葉を、伝える事が怖いと思っていたのが嘘の様に何度も繰り返し、レイも同じように俺の欲しい言葉をくれた。 絡めた指は、そのままに何度も何度も繰り返す。 二人で手を繋ぎあって眠る。 そんな日が来るとは思わなかった。 諦めていた。 けれど、今この時は本物で偽物ではないと分かる。 絡め合ったこの指がもう二度とはぐれてしまわないように、俺はもう一度レイの手を掴みなおして、ゆっくりと瞳を閉じた。 end
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